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テーマアマゾンのホールフーズ買収

オンライン小売の米アマゾン・ドットコムは、自然・有機食品小売り大手の米ホールフーズ・マーケットを、債務含め137億ドルで買収すると発表しました。この巨額買収について、プロの視点から考察します。

「アマゾンのホールフーズ買収について」

2017年7月27日
漆山伸一

公認会計士

公認会計士、税理士、証券アナリスト。監査法人トーマツ、デロイトトーマツコン
サルティング合同会社を経て独立、漆山パートナーズ会計事務所(現税理士法人 漆
山パートナーズ)を設立。現在、株式会社アットタックの代表も務め、会計税務業
務、企業再生、事業承継、M&A、海外資産運用サポートなどのコンサルティング業務
にも多く携わる。その他、上場企業の取締役も歴任している。


2017年6月にアマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)が米高級食品スーパーのホールフーズ・マーケット(以下ホール・フーズ)の買収を発表しました。買収金額は、137億ドル(約1兆5000億円)であり、アマゾンの過去の企業買収金額としては過去最大になります。なぜ、アマゾンはこのホールフーズを買収したのかについて考えていきたいと思います。

 

なぜ、アマゾンは異業種企業の買収を行うのか?

アマゾンは、EC事業(*1)メインのプレイヤーであり、日本でも多くの方が、アマゾンを利用して、本や、電化製品等の購入されているのではないでしょうか。近年では、アマゾンプライム会員制度を確立し、消費者へのサービスの充実を図ることでアマゾンのサービスは多くの方の生活になくてはならないものになっています。そんなアマゾンがなぜEC事業ではない、実店舗を有したスーパーマーケットを買収するのでしょうか。筆者が考える理由として、2点あります。

 

1点目は、既存事業のアマゾンフレッシュの配送網の整備です。アマゾンは、EC事業において順調に成長していますが、より成長するためには、消費者との接触頻度を上げて、購買頻度をあげる必要があるといえます。そのためには、消費者の購入頻度が高い商品を取りそろえる必要があります。消費者にとって購入頻度が高いものは食料品であると言えます。アマゾンはこれを受けて、アマゾンフレッシュというビジネスを10年前からアメリカで始めていますが、食料品は鮮度が大切であるため、現在でも全米全土での利用はできておらず、配送網の整備が課題になっている状況です。全米全土に店舗を有している、スーパーマーケットを買収できれば、各店舗を配送拠点することが可能となります。

 

2点目は新サービスの拡大のためです。アマゾンは消費者の購買体験を変えるため、アマゾンGoというサービスを開始しようとしています。このサービスは、コンビニサイズの小規模の店舗でAI技術とカメラとセンサーを利用して、商品をレジに通すことなく、消費者が買い物かごに商品をいれるだけで、決済を行おうとするサービスです。これは、消費者から見れば、レジを待つ時間が無くなりスムーズに買い物を行うことができます。また、お店側としてはレジの人員削減につながるため、経費を圧縮することができるので、消費者の購買体験、企業側の店舗運営を今までのものとは180度変えるものであると言えます。このサービスを今後普及させるための店舗の獲得が目的であると思います。

 

以上の2点から、今回のケースは、既存事業の強化と新規事業のサービス展開のためと考えます。企業買収には、一から投資を行うよりも、コストがかからず、またスピード感をもって事業拡大を行うことができるメリットがあります。今回のケースはその典型例だと言えます。

 

*1: Electronic Commerceの略。インターネットなどのネットワークを介して契約や決済を行う取引形態のこと。

 

 

ホールフーズとはどのような企業なのか

ホールフーズは、1978年テキサス州オースティンに設立された、オーガニック食品や高級食料品を提供するスーパーマーケットであり、2016年度時点米国、カナダ、英国には460店舗を超える店舗を有しています。米国経済誌のフォーチュン誌による「最も働きたい企業100社」に毎年ランキングされている人気企業であります。

過去5年間の業績及び店舗数の推移は以下になります。
 
(単位:$millions)

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
売上 11,699 12,917 14,194 15,389 15,724
営業利益 744 883 934 861 857
営業利益率 6% 7% 7% 6% 5%
店舗数 335 362 399 431 456
売上高成長率  16% 10% 10% 8% 2%

(出典:ホールフーズ年次報告書(Form 10-K)から抜粋)

 

上記の業績の推移をみると、売上高が店舗数の増加に伴い、売上高が増加している。その一方で、直近では営業利益率や売上成長率は鈍化している傾向にあるといえます。

この要因として、ホールフーズの強みは、オーガニック食品にこだわり、惣菜なども自然食品を使うなどし、他のスーパーマーケットと差別化を図ることで、高い収益率を上げていました。しかし、近年では競合他社もオーガニック食品の販売を強化したことで、ホールフーズの優位性もなくなってきておりました。その結果、商品自体の価格も競合他社との価格競争に陥ってしまったことで、営業利益率及び売上高成長率の鈍化している要因になっています。

以上のように、会社としても持続的な成長を行うためにも、競合他社との差別化や戦略を立てることが必要であると考えられ、アマゾンとの合併は会社の成長鈍化を打破するためには必要なことであるといえます。

 


まとめ

今回の買収は、アマゾン及びホールフーズの両社の思惑が一致した買収であったと考えます。アマゾンは、ネットワークを介した消費者の購買体験だけではなく、実際に店舗を訪れた際の購買体験を変えて、より便利な生活を提供することで、消費者との接触機会を増やし、より事業を拡大していくことでしょう。また、アマゾンフレッシュが一部の地域のみでありますが、2017年4月から日本でもサービスを開始しています。今回のホールフーズのような買収が日本企業に対しても行われるのでしょうか。我々の生活を変えていくアマゾンにこれからも注目していきたいと思います。

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    花澤健司

    公認会計士

    大手監査法人で会計監査業務および会計アドバイザリー(IPO、企業価値評価、企業再生及びM&Aのための財務デューデリジェンス)の業務に従事したほか、PE Fundおよび不動産ファンドに対して、M&Aアドバイス及び会計スキーム構築アドバイス、内部統制アドバイスに行った。2012年1月より独立開業、バイオベンチャーのCFOや資金調達支援といったコンサルティング以外の業務も積極的に行っている。