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テーマソフトバンク・ビジョン・ファンドとは

2016年10月14日にソフトバンクが設立したソフトバンク・ビジョン・ファンドを、プロの視点から考察します。

「ソフトバンク・ビジョン・ファンドとは」

2017年9月1日
花澤健司

公認会計士

大手監査法人で会計監査業務および会計アドバイザリー(IPO、企業価値評価、企業再生及びM&Aのための財務デューデリジェンス)の業務に従事したほか、PE Fundおよび不動産ファンドに対して、M&Aアドバイス及び会計スキーム構築アドバイス、内部統制アドバイスに行った。2012年1月より独立開業、バイオベンチャーのCFOや資金調達支援といったコンサルティング以外の業務も積極的に行っている。


2016年10月14日にソフトバンクは、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(以下、「本ファンド」という)を設立することを発表した。また、2017年5月22日には本ファンドの初回クロージングが完了した旨の発表がなされた。また同時に、本ファンドにソフトバンクが先日取得したARMの株式約1兆円分(議決権約25%)の現物出資することも同時に発表された。本ファンドの概要は以下の通りである。

 

ファンド規模 10.4兆円(うちソフトバンク3.1兆円)
投資対象 テクノロジー分野
投資期間 最終クロージングから5年間(一部例外あり)
存続期間 最終クロージングから最低12年間(一部例外あり)
ジェネラル・パートナー(GP) 当社の海外100%子会社
リミテッド・パートナー(LP) 当社、PIF、ムバダラ、アップル、フォックスコン、クアルコム、シャープ
連結対象 ソフトバンク社の連結

 

 

投資対象はテクノロジー分野となっているが、ソフトバンク社のホームページでは、IoT(Internet of Things)、人工知能、ロボティクス、モバイルアプリケーション及びコンピューティング、通信インフラ及び通信事業、計算生物学、その他データ活用ビジネス、クラウドテクノロジー、ソフトウエア、消費者向けのインターネットビジネス、金融テクノロジーといった分野が例示され、次世代のイノベーションを引き起こす可能性のある企業やプラットフォーム・ビジネスに投資することが表明されている。実際に投資案件は、米国の低軌道衛星通信事業を営むone webを皮切りに連日のように投資実績が報道されている。現状は、本当に様々な分野に投資しており、一見すれば節操がないように見えかねないし、ファンドの投資スタイルでは例のないものになっていると思う。

 

 

 

理想と現実のギャップ 

孫氏が本ファンドを立ち上げた理由は何だろうか?筆者はこの話を聞いた時、率直な感想は孫氏の投資スタイルとは合わないという思いだった。ソフトバンクの沿革を見ると、孫氏は常にその投資を自社グループで行ってきた。つまり、すべての投資先を自分のものにしてきたという印象がある。事実ARMやSPRINTも巨額の投資であるが、自社保有を基本とした投資としており、長期間の保有している傾向があると考えている。そういった投資かつ所有が孫氏の投資スタイルであり、信条であると思ってきた。それだけに今回の本ファンドの設立は従来の投資スタイルを覆すものであり、孫氏の考えが変わったのかと思ったのだ。しかし、当の孫氏は、本ファンドに関する思いを熱く語っており、本ファンドはソフトバンク社が300年成長続けるための投資であるといっている。しかしながら、300年の成長というのであればそれなりに長い期間投資先を所有すると思うが、ファンドの存続期間は例外があるものの最終クロージングから12年と特段長いものではないし、ファンドの性格上発表されていないが相当程度のリターンが要求されていることは明白であり、いつか保有株は売却しリターンを確保しないといけないので、実際の保有期間はもっと短くなると思う。また、ファンドを連結するのはソフトバンク社であるので、連結財務諸表にはファンドが持っている会社も連結される可能性がある(採用している会計基準と方針によって会計処理が異なるため、必ずしも連結されないことも考えられる)が、実際には約30%程度の持分しかないわけである。つまりソフトバンク社が300年成長続けるには、持分も保有期間も少し物足らない印象がある。ここにソフトバンク社の抱える理想と現実があるのではないかと思う。その一つは、ソフトバンク社の有利負債の水準である。

(単位:百万円)

2014年度 2015年度 2016年度
総資産額 21,034,169 20,707,192 24,634,212
有利子負債 11,607,244 11,922,431 14,142,922
純有利子負債 8,182,817 9,248,363 11,207,617

 



ソフトバンク社はこれまですべての投資を自社で行ってきているため、投資するために資金を社債等多額の有利子負債を調達することによって行ってきた。そのため有利子負債は2016年度には、総資産の約57%に達し、かつ純有利子負債(純有利子負債=有利子負債-手元流動性(現金及び現金同等物+流動資産に含まれる短期投資))は依然として10兆円を超えている数値であり、金利が1%上がるだけで1400億円の業績の圧迫要因となる相当な高水準である。財務担当の心労いかばかりかと察するに余りあるが、特に2015年度から2016年度は2兆円も増加していることから考えると今後の同社の投資余力(資金調達余力)はそこまで大きくないのではないかと推察される。つまり孫氏としては「投資したくてもできない」状況に追い込まれているのではないかと思う。一方でIOTやインフラ産業の成長は著しく、孫氏としては投資したいところだらけな状態になっているのではないかと推察する。ここに一つの理想と現実のギャップがあり、ソフトバンク社として、投資先を保有したいが、財政的に保有できないという限界がきているのだと思う。そこで孫氏が考え出した奥の手がソフトバンク ビジョンファンドではないかということである。これならば、持分は30%しかなくても、買収のための財布が10兆円という巨額になり、買収先を増やすことができる。また、スタートアップのような財政状態がよくない企業にも、ソフトバンク社の財政状態に与える影響も比較的小さくて済むため、積極的に投資が可能である。まさに孫氏としてはこれしかないという手かもしれないが、一方で厳しい目をもった投資家を内部に抱えることになり、それはこれから孫氏を悩ますかもしれない。しかし、10兆円という大きな財布を手にした孫氏が、どのような会社に投資し、事業を成功させ、未来を提供してくれるのかという期待が膨らむ。ぜひとも、本ファンドが「情報革命で人々を幸せに」という本ファンドの理念どおりになることを期待したいと思う。

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