» ポラリスのBAKE巨額買収にみるファンドM&Aの傾向

テーマ設立僅か4年の「BAKE」を100億超でファンドが買収

2017年7月31日、投資ファンドを運営するポラリス・キャピタル・グループ株式会社が株式会社BAKEの株式を取得する、と発表しました。

注目を浴びたのは、その買収額が100億超であると報じられていることです。

株式会社BAKE2013年に設立された会社で、僅か4年で100億超の企業価値を実現したことになります。この真意に迫ります。

「ポラリスのBAKE巨額買収にみるファンドM&Aの傾向」

2017年9月13日
小坂俊介

弁護士

東京総合法律事務所代表パートナー。同所母体である西川茂法律事務所に2004年10月入所、2009年よりパートナー。主な業務は顧問業務。付随する個別案件として、相続・事業承継、M&AのDDや契約交渉、企業倒産等を扱う。現場主義をモットーとし、クロスボーダー案件では、東南アジア内陸部等のサイトビジットを活発に行う。

ポラリスによるBAKE買収

投資ファンドのポラリス・キャピタルは、7月31日、「BAKE CHEESE TART」などを運営する製菓企業のBAKEを買収すると発表しました。BAKEの株式上場に向けた資金調達及びガバナンス強化が狙いとのことで、今後ポラリス側から人的物的支援を行う予定です。同日付の日本経済新聞によると、買収額は100億円強とのことですが、150億円という情報もあるようです。なお、取得した株式の比率は非公開。

 

ファンドの法的な規制

ポラリスはファンド会社ですので、まず一般的なファンドの法的規制を確認しておきましょう。

まず、ファンドを組成・運用する場合には、組成の募集と、運用とでそれぞれ金融商品取引業者としての登録が必要になります(ファンドの募集業務は、第2種金融商品取引業、運用業務は投資運用業の登録)。ただし、登録には相当なハードルを超える必要があるため、プロ向けにファンドを募集する場合に限り、規制が緩やかな届出制で足りることになっています。これを適格機関投資家等特例業者と呼んでいます。これまで通例のファンド事業者は、この適格機関投資家等特例業者として規制をクリアしてきました。なお、以上の規制はいずれも金融商品取引法によるものです。

ポラリスについては、ファンドの投資家情報が公表されていませんが、金融庁の登録情報からすると、おそらく適格機関投資家等特例業者としての届出によって金融商品取引法上のハードルをクリアしていると思われます。

この適格機関投資家等特例業者の届出制ですが、従前は、50人の応募者のうち、1人でもプロがいれば、あとの49人は素人(一般投資家)でも良いとされていました。そのため、上記のとおり、ファンド事業者は殆どが適格機関投資家等特例業者の届出制を利用してきました。ところが、最近制度の悪用が問題視されて、平成28年3月からは、ファンド応募者全員がプロ(又はそれに近い投資家)でなければならないことになりました。それで、今後は相当数のファンド事業者が撤退を余議なくされると見られています。

ポラリスについては、第4期目の募集(第4号投資事業有限責任組合、平成28年12月募集完了)も難なく応募を完了したとのことですので、規制が強化される平成28年3月より以前から、殆どがプロ向けの投資家によって資金組成をしていたのではないかと思います(あくまで推測ですが。)。

 

巨額買収の背景

ところで、今回のポラリスによるBAKEの買収金額は、100~150億円(推定)とされています。この買収は、2017年4月に募集完了した第4期(第4号組合)で最初の投資と見られますが、募集した総額376億円という募集規模からすると、相当に大胆な投資であったと思われます。

というのも、これまでポラリスのファンド第1期~第3期(第1号~第3号組合)までは、リスクヘッジとリターンの安定化のために、資金を相当複数の投資先に分散させる方法を採っていました。

これに対して、今回の投資は、募集額の3分の1以上を占めるものですから、これまでのポラリスの投資方針からすると、かなり大胆な巨額買収を行った、と言えるでしょう。

このような巨額買収となった背景としては、上記のとおり、平成28年3月から、金融商品取引法上の適格機関投資家等特例業者の規制が完全プロ向けになったことで、よりリスクよりもリターンを採る戦略に切り替えやすくなったということも一つ言えるかもしれません。

のみならず、こうした規制による応募者の全員プロ化以外にも、ポラリスがファンドであった故に、BAKEとのマッチングが成功した理由があると思います。

 

ファンドと従来型社長のタイプの違い

ファンドのマネージャーは、一般論ではありますが、従来の日本型の社長のタイプとは馴染みにくいところがあると思います。

従来型の日本の社長のタイプは、一例で言うと、・新規開拓では、自分のひらめきを大切にし、やりたい事業をやる。・社長が会社のトップであり、重大な責任を負っている。・従業員や取引先には常に思いやりを持つ。・銀行と税金は常に悩ましい。といったところでしょうか。

これに対し、欧米型といいますか、ゴーン社長やホリエモンを始め、新経済連盟の経営者といった新しいタイプの経営者たちは、ファンドマネージャーと類するところがあるように思います。一例としては、・社長業は投資ビジネスである。・自分のやりたいことではなく、徹底したマーケティングが必要である。・理想的なレバレッジと、回収可能なターゲットを設定する。・実務の最適化・自動化・マニュアル化を進める。・社長や役職は役割であって人間関係の序列ではない。など。

また、従来の日本型社長が持っている、熱意や思いやりといった情緒面は、新しい経営者は、あくまでパフォーマンスとして行っている(演技が上手い)ところも特徴ではないかと思います。

以上は極端なタイプ分けですが、概ねの傾向としてはそのように思います。

 

ファンドに馴染む業界と経営者タイプ

日本では、業界特有のルール・慣行、法規制、また特定取引先の依存性などがあって、まだまだ従来の日本型社長が頑張っています。しかし、そうした経営では、業界にルールや慣行がなく、特定のお得意先に依存しない場合、レッドブルのような徹底したマーケティングと、計算された最適化、合理化には太刀打ちできません。特に、エンドユーザーを相手にする商売では、やはり日本型社長ではなく、投資マネージャーのような経営者が勝負に強い傾向が顕著になります。その代表的な業界を挙げるとすれば、飲食業、アパレル業、そしてアプリ等のエンド向けIT業です。

今回の買収先は、BAKEという飲食業であり、業績からすると、おそらく経営者の中に、投資マネジメントに長けた人材、新しいタイプの欧米型の経営者がいると考えられます。

ポラリスといったファンドは、そうした経営陣には投資しやすい。というのも、ファンド側としては、やり手の(ただし、投下資本の回収、など考えたことがない)日本型の社長とでは、協調していくことに相当な苦労を要するからです。体質が異なる社長であれば、投資マネージャーは当然、社長への説得や教育、またそれが失敗するリスクに常に頭を悩ませることになります。

こうしたファンドの体質とのマッチング、そしてエンド向けの事業分野という点も、今回ポラリスが大胆な投資に勝機を見出した理由の一つであるということができると思います。このことからすると、M&Aを狙う売却側の事業者にとっては、次のことが言えるでしょう。

・飲食、アパレル、ITといったエンド向け事業は、ファンドへの売却に馴染みやすいと言えます。

・売却側の社長としては、社長業=投資運用業という経営スタイルに対して、十分な理解と学習をしておくのが得策です。

(了)

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