プロコメ

2017.9.20

KDDIによる、「IoT」関連のベンチャー企業、ソラコムの買収について

2017.9.20

KDDIによるソラコムの買収と独占禁止法への影響

加藤一真
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はじめに

2017年8月1日、KDDI株式会社(「KDDI」)は、株式会社ソラコム(「ソラコム」)の発行済株式を取得する株式譲渡契約(「本契約」)を締結した。ソラコムは、IoT(Internet of Things)プラットフォームを提供する、日本のベンチャー企業である。今回の株式取得によるソラコムの買収(「本件買収」)は、設立から3年に満たないスタートアップであったソラコムが、総額200億円とも報じられた金額で買収されたことでも注目を集めた。ただし、実際の買収金額は非公表とされている。

外部投資家からの株式取得

KDDIによる本件買収は、M&Aのうち、株式取得の手法によるものである。したがって、本件買収におけるKDDIの交渉及び契約の相手方は、ソラコム自身ではなく、ソラコムの既存株主であった。ソラコム社長の玉川憲氏のインタビューによると、本件買収により、ソラコムの既存株主のうち外部投資家は全持ち株をKDDIに譲渡するが、ソラコムの経営陣は引き続き株式を保有する、とのことである。

本件買収がなされるまでに、ソラコムは外部投資家4社から資金調達を行っている。この4社は具体的には、ベンチャーキャピタルのWorld Innovation Lab、同じくベンチャーキャピタルのインフィニティ・ベンチャー・パートナーズ、プライベートエクイティファンドのPavilion Capital、そして日本の投資運用会社であるスパークス・グループという構成のようである。本件買収に当たり、これら4社が、ソラコムの株式をKDDIに譲渡することに同意した、ということになる。

仮に本件買収の総額(KDDIによる株式買取代金)が200億円であったとすると、これはM&Aの規模としてどの程度の位置づけとなるのだろうか。2016年のM&Aは、件数が2,652件、総額が16兆6,133億円であったといわれている。平均すると、M&A 1件当たりの金額は、62.6億円となる。したがって、本件買収の総額はその3倍強に相当する。しかし、本件買収は、その金額だけで注目されたのではなく、対象会社のソラコムが設立されてから3年未満であったことも大きい。この点、独占禁止法の観点からも、本件買収は以下のとおり興味を引く事例である。

独占禁止法に基づく事前届出

日本の独占禁止法は、本件買収のような株式取得について、次の3要件(①ないし③)のすべてを満たすものを、公正取引委員会への事前届出の対象としている。

① 株式の取得会社について、その企業グループの国内売上高の合計額が200億円を超える。
② 株式の発行会社(すなわち対象会社)及びその子会社の国内売上高の合計額が50億円を超える。
③ 株式取得の結果、取得会社が保有する対象会社の議決権の割合が20%又は50%を超えることとなる。

事前届出は、株式取得等の企業結合によって「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」場合に当たらないかを審査する目的で要求される。事前届出の対象となる株式取得は、届出の受理から30日間、その実行が禁止される。

本件買収をみると、①については、株式の取得会社であるKDDIの企業グループの国内売上高合計額は、200億円を超えるものと考えられる(KDDIの2017年3月期の全世界の連結売上高は47兆4,826億円であった)。また、③については、本件買収により、KDDIはソラコムの議決権の50%超を保有することになるようである。

これに対し、②の要件については、ソラコムの売上高は公表されていない。ただ、ソラコムが設立から3年弱であり、かつ日本だけでなく米国、デンマーク及びシンガポールにも拠点を設置してビジネスを展開していることから、国内売上高に関しては50億円以下である可能性もある。その場合は、②の要件が満たされないため、本件買収は事前届出の対象とならない。

取引価額基準の導入

もっとも、ソラコムはIoTプラットフォームを提供する企業である。このようなプラットフォーム事業を提供する企業は、その市場に対する影響力に比べて、売上高が相対的に小さいことがある。かかる場合に、(上記②の要件を満たさないことで)独占禁止法に基づく事前届出を免れてよいのか、売上高が小さくても「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」場合があり得るのではないか、という議論が国内外でなされており、実際にドイツでは、取引価額基準というものが導入されている。これは、売上高の小さな企業を対象とするM&Aであっても、当該M&Aの取引価額が一定規模を上回る場合は、競争の実質的制限のおそれがあるものとして、やはり事前届出の対象とする考え方である。ドイツでは、4億ユーロ(約520億円)超という取引価額基準が採用された(ただし、当事会社に一定の売上高があることも要件とされている)。

本件買収は、総額200億円と報じられており、上記ドイツの基準額には届かない。しかし、設立から間もなく、売上高もそれほど大きくない(可能性のある)企業が巨額で買収されるという先例が生まれることで、今後日本でも、事前届出の要件を見直して上記取引価額基準を導入すべきとする議論が加速する可能性があり、立法論の行方が注目される。

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