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2017.11.1

M&Aのスキーム(株式交換スキーム・株式譲渡スキーム)

中野友貴
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1 はじめに

2017年10月3日、株式会社AMBITIONは、ヴェリタス・インベストメントを買収し、完全子会社化することを発表しました。AMBITIONは、借り上げた不動産のサブリース事業など、不動産の賃貸管理事業を主要な事業とする会社です(2007年設立。2014年マザーズ上場)。ヴェリタス・インベストメントは、投資用のデザイナーズマンションの開発・分譲販売・管理事業を行う会社です(2008年設立。)

2 本件スキーム

今回は、M&Aのスキームを見てみたいと思います。ヴェリタス・インベストメントの発行済み株式数は、32,000株でした。本件のM&Aでは、AMBITIONがヴェリタス・インベストメントの株式32,000株すべてを取得し、ヴェリタス・インベストメントを完全子会社化するものです。そこで、それに適した方法を検討することになります。本件では、以下のような方法がとられました。

・株式譲渡
本件では、32,000株(100%)のうち31,528株(約98.5%)については、ヴェリタス・インベストメントの筆頭株主からAMBITIONに対して株式譲渡がされました。

・株式交換
残りの472株(約1.5%)については、株式交換手続きがとられました。

3 スキームの類型

これらの手続きの概要、メリット・デメリットをご説明します。M&Aのスキームには様々なものが考えられます。一般的には、以下のように分類されます。

①事業譲渡
②株式譲渡
③株式交換
④株式移転
⑤会社分割
⑥合併

それぞれ、メリット・デメリットがありますので、個別の事案に応じてスキームを検討する必要があります。

4 株式譲渡スキーム

本件で採用されたのは、②株式譲渡と③株式交換です。これらの手続きのメリット・デメリット、本件で採用された背景をみてみましょう。株式譲渡は、ベンチャー企業・中小企業のM&Aのスキームとしては、最も一般的といえます。株式を譲渡するだけであるため、対価や条件などを定めた株式譲渡契約を締結すれば、最低限の手続きが完了してしまいます。

他の手続き(①③④⑤⑥)では、通常、当事者(双方・一方)が株主総会の招集・承認手続きをすることが必要です。

株主さえ納得すれば、会社法上、譲渡契約以外の手続きが必要ではないため、簡易かつスピーディに手続きを進めることができます。

また、株式の譲渡によって、会社の支配権を完全に移転させることができるため、このような点を実現するためには非常にシンプルといえます。

一方で、売り手に簿外債務(貸借対照表上に表れていない債務)や偶発債務(一定の条件が成就された後に顕在化する債務)がある場合、このような債務も買い手に引き継がれてしまいます。これを防止するために、デューデリジェンス(買い手が売り手のビジネス・法務・財務などを審査する手続き)を入念に行ったり、株式譲渡契約書においてそのような債務がないことを保証させたり、などを行います。しかし、そのような手続きを執っても、リスクをゼロにすることはできません。

本件では、完全子会社化して支配権を移転することが目指されましたので、中小企業・ベンチャー企業における一般的なM&Aと同様に株式譲渡が採用されています。

5 株式交換スキーム

次に、株式交換について見てみましょう。

株式交換は、買い手の会社は、売り手の会社の株式の100%を取得します。一方で、買い手の会社の株主は、売り手の会社の株式を取得することになります。これにより、買い手の会社は、売り手の会社の株式の100%を取得することができます。

株式交換のメリットとしては、株主の全員が同意しなくとも、100%子会社化できる点があります。つまり、株式譲渡によって100%子会社化を実現するためには、売り手の会社の株主の全員と株式譲渡契約を締結しなければなりませんが、株式交換手続きでは株主総会の特別決議があれば可能となっています。

また、買収資金が不要である点が挙げられます。つまり、買い手の会社は、売り手の会社の株式を取得する対価として、自社の株式を交付することになりますので、資金を準備することなく手続きできることになります。

ほかにも、買い手の会社と売り手の会社は、あくまで別の法人であるため、買い手が簿外債務や偶発債務が引き継がれることにはなりません(とはいえ、完全子会社の簿外債務・偶発債務であるため、買い手も間接的には影響を受けます)。

デメリットとしては、株主総会決議などといった手続きの負担があります。
本件では、AMBITIONがヴェリタス・インベストメントを完全子会社化することが目指されていたため、98.5%の株式を譲渡した後に、1.5%の株式について、株式交換手続きを執るメリットがあったといえます。

本件では、AMBTIONが発行した新株を対価としたのではなく、同社の自己株式を対価としました。本件では、1.5%を含めた100%の全てについて、株式譲渡のスキームで行うことも可能であったと思います。それにもかかわらず株式交換スキームを行ったのは、AMBTIONがこのような自己株式を活用する点にあるものと思われます。

以上のとおり、M&Aのスキームにはそれぞれメリット・デメリットがあります。シナジーを最大限にできるように、最適な方法を検討されるとよいです。

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