プロコメ

2017.11.15

ネスレのブルーボトルの買収について

2017.11.1

ネスレのブルーボトルコーヒー買収

小黒健三
小黒健三 公認会計士 プロフィールを見る

我が家も、2~3年ほど前からちょっとしたコーヒーブームである。妻も、バリスタにコーヒーの入れ方を学び、新しいコーヒーの選定の話が会話のなかで増えている。

それは、ブルーボトルコーヒーがきっかけだったわけではない。しかし、全く関係がなかったわけでもないだろう。ブルーボトルコーヒーを先駆者とするサードウェーブコーヒーの流れは、青山、代官山には間違いなく到来していた。代官山ログロードにブルーボトルコーヒーが来ないとわかったときには、少しがっかりした。

2017年9月14日に、Nestleがその米ブルーボトルコーヒーの株式の68%を買い取ったという。対価は、Financial Times等によれば68%で5億ドルとの情報(当時レートの換算で約550億円)である(※注、9月15日付のDow Jonesでは、4.25ドル、という言及もある)。ブルーボトルコーヒーの価値は、知っているつもりだった。それでも100%価値として、800億円を超える。相当高いな、というのが私の最初の正直な感想であった。それとも、私の想像が貧弱なためであろうか。

Nestleの見解はどうであろうか。買収当時のNestleのCEO、Mr.Mark Schrender氏のコメントは以下のとおりである。

”This move underlines Nestle’s focus on investing in high-growth categories and acting on consumer trends. Blue Bottle Coffee’s passion for quality coffee and mission-based outlook make for a highly successful brand. Their path to scale is clearly defined and benefits from increasing customer appreciation for delicious and sustainable coffee.”

日本人は素直に言葉を取らず逆に言外の意を汲み取る、ということを訓練されている。英米の言葉を受け取るときもそのマインドを持ち込む癖が私にもあるが、こうしたときの言葉は結構な確率で、「そのまま」を言っていることも多い。

簡単にいえば、ブルーボトルコーヒーは、クオリティコーヒーという新しい市場分野を作り出し、コーヒーの中で一つの流れを作り、急成長を実現してきた。ネスレは、そうした成長分野、顧客志向に立った事業への投資に注力しているのだ、と。おそらくこのままなのだろう。実際には、ブルーボトルのマーケティングに巨額の予算を通じて、ブランドをも強化する、ということになるのではないか。

ブルーボトルコーヒーの店舗数は、現在50店舗という。単純計算であるが、現在の1店舗あたりでいえば、15億円以上の価値、となるなが、そうした考え方ではブルーボトルコーヒーの価値は理解できない気がする。

私が現在手に入れられるブルーボトルの財務情報は多くはない。2016年度で売上が68億円、というぐらいだろうか。2015年は45億円程度であるから、Nestleがいうように、成長著しいのは間違いない。ただし、規模はコーヒーショップとして非常に大きい、とまではいかない。

意識の高い、高級分野を切り開いたコーヒーショップといえば、米スターバックスになるのだろう。スターバックスは年商2.4兆円で純利益が3,150億円相当。時価総額は9.0兆円。ブルーボトルとは比べようもないほどに大きい。

日本でのコーヒーショップでも、ドトールであれば、年商で1,200億円をこえ、売上はブルーボトルの20倍近くであり、サンマルクコーヒーでも年商675億円でブルーボトルの10倍ぐらいはある。

スターバックスは、企業価値/売上乗数で3.5倍~3.8倍。EBITDA乗数で15倍前後である。ドトールなど、日本の市場では、企業価値/売上乗数で1倍を切る程度、企業価値/EBITDAで6~7倍。どうしても、日本のコーヒーショップと比べる癖もでてしまうが、本件が米国の案件だという点を除いても、日本のコーヒーショップはドメスティックにとどまるものであり、ブルーボトルの価値を考えて比較するならば、世界展開をベースにしたスターバックスをベースに考えていく必要はあるだろう。

スターバックスと比べると企業規模は相当に低いが、ブルーボトルの方が客単価や利益率は高いであろう。そうなると、ブルーボトルは売上乗数でいえば5-6倍、というのはあるかもしれない。それでも、800億円の価値をつけるには、120億円~150億円ぐらいの売上を期待するところである。逆に言うと、売上を2~3倍程度にすればよい、となる。ブルーボトルの今の勢い、ブルーボトルブランドを通じたNestleが享受するシナジーを考慮すると、確かにそれほど難しい話ではないように思えてはくる。やはり、本件を高いと感じた私の想像が貧弱だったような気がしてくる。

表参道のブルーボトルコーヒーを始めて飲んだとき、草や土の香り、シルキーで長い余韻、なめし皮のような・・ワインのテイスティングでの表現を使いたくなるようなものを感じた。ただし、他のサードウェーブコーヒーと根本的に異なる、というものではない。それでも、ここが世界での新しい市場を作った、ということはほぼ間違いない。米国西海岸ではまた違うストーリーがあると思うし、そうしたことに夢を馳せる方々もいるであろうが、そうした想像を抜きにして、美味しいコーヒー、グルメコーヒーの先駆者、というのはわかりやすいものであり、飲食事業ではこうした単純さはグルーバルに広がる基礎である。ブルーボトルは成長する要素をふんだんに持っていると感じる。

ブルーボトルコーヒー創業の話として、東京青山の飲んだコーヒーのおいしさに感動し、それをサンフランシスコに再現しようとした、という話がある。その真偽は私にはわからない。ただ、こうした逸話を通じて思うのは、日本は個別の、洗練化されたものを作るのは上手である。日系のサードウェーブコーヒーも、味では負けていない。それでも市場を作るのはアメリカである。こうした仕事をしていると、そうした現実は、時々寂しく思うこともある。

その他専門家コラム

最新のプロコメテーマ