プロコメ

2017.12.20

DDホールディングス エスエルディーに対するTOB

2017.12.21

個性はお金を生むか?-ダイヤモンドダイニンググループによるSLDエンターテインメントTOB

小黒健三
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年末年始は何かとお金をよく使う時期だ。そのためか、金銭に対して考えることが多くなり、会話でもそうしたことが増える。そんな時期、ダイヤモンドダイニンググループ(DDホールディングス)のSLDホールディングスへのTOBをテーマに、M&Aにおけるお金、というものを少しだけ考えてみようと思う。

乱暴な言い方をすれば、M&Aは金銭が絶対的な意味をもつ世界である。

協業によるシナジー、事業承継の目的、人を確保するためのM&A、全てM&Aで考えるべき真実である。M&Aの過程には、非常に人間的な要素も多い。それでも、M&Aの結果を振り返ると、業績や経営資源を確保した企業が、高い金額で売却を行いたい、という意思に買い手が合意した、という以上の意味がないことも多い。M&Aは本質的に売り手主導のプロセスであり、売り手にとって「得した」と思える金額で双方が折り合えることが、極めて重要である。特に中小企業の案件では顕著である。それはよい悪いではなく、そういうものだと受け止めるしかない。

話を戻そう。個性的な店舗展開をするダイヤモンドダイニンググループが、これまた個性的な店舗で知られるSLDエンターテインメントを6.87億円で46.51%取得(TOB)したという。

100%の買収価格に換算し14.7億円。取得時の時価総額16.2億円に対し▲13.48%とマイナスのプレミアムである。SLDにとっては株価よりも低い売却である。通常なら、売り手には本意な話ではない。TOBだけは、売り手主導ではない敵対的なTOBもありうるが、本件は市場から株式を買い集めるいわゆるTOBとは異なるし、友好な案件と思われる。それでは本件はSLDやオーナーにとっては金銭的にもハッピーな案件だったと考えてよいのだろうか。

SLDは、瓦カフェなど飲食店を70店舗弱展開している。単一的なブランドで店舗を展開するタイプではなく、各店舗が個別店に見えながら実際はグループに入っている、というタイプの展開である。「エンターテイント」を社名につけているだけあり、キャラクターコンテンツなども活用した個性的な店が多い。「楽しみに溢れた豊かなライフスタイルをより多くの人々に提案する」という方向はある程度実現されているように思う。売上は2013年3月期の30億円から、2017年3月期には55億円まで伸びている。それでも、数字は残酷な面がある。

2017年3月期には経常損益は0.4億円の赤字となり、2018年3月期の上半期は経常損失が0.75億円にまで拡大している。飲食店は、設備投資を続けない限りは、売上が上がっていきにくい業種である。客数や客単価が減少し、人件費や店舗運営コストも増大しているかもしれない。

カジュアル店の展開であり、こうしたセグメントにいる企業が利益を出し続けるのは並大抵のことではない。人手不足で人件費等のコストが上がるときに、特にこうした店舗は苦しむ傾向もある。株価が割高だった、というのがフェアな見方であり、会社自身もそれを感じてきたであろう。きちんとした協力関係をもって業績を伸ばせるなら、マイナスのプレミアムで構わないと、今回の案件では判断をしたに違いない。

SLDは、各店が個性を出し多くの人を楽しませる、ヴィジョンは明確である。私も美術という、「個性」こそが価値である世界に身をおいていたことがある。個性が経済的なメリットも生むものであって欲しい、という気持ちは今も変わらない。それでも、経済に愛される企業の大半は、もう少し無個性でも、わかりやすいブランド、規模、機能性を持つ組織なのだろうし、またそういう時代は続くだろう、と思わざるをえない。

個性はお金を生むか?という問いに対し、M&Aの観点からいえばNoであることが多い。単純なことであるが、個性が強みであり、それが金銭を生む可能性が高い場合にのみ、初めてYesとなる。むしろM&Aでもっともシナジーが出やすいのは、金融、素材、エネルギー、流通、通信など、どちらかというと無個性なサービスを扱い、規模のメリットが出やすい業種が多いのが現実である。

本件がよいと思われるのは、2社ともに多様な嗜好に合わせたコンセプトを重んじ、相性がよさそうであることである。ダイヤモンドダイニングはSLD以上に店の展開は、個別的かつ個性的である。同社はそれで利益も出している。相性というのは、バルエーション等の計算で見えるよりずっと重要な要素である。同じシナジーでも相性がよい企業同士では、実現の難易度が低くなる。本件ではスケールメリットも出やすいだろう。そういう意味では、SLDにとっては、最高のハッピーではないにしても、十分な期待を持てる資本提携、ということは言える気がする。

M&Aはある意味無個性的な要素を好む、ということに触れた。だからこそ、個性的なもの同士の提携を見るとき、成功してほしい、という期待もある。私のコメントにはどこかそうした願いも含まれているかも知れない。

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