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2018.1.24

学習塾業界のM&Aについて

2018.1.24

学習塾のM&Aは労務面に注意!?

中野友貴
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学習塾業界のビジネスモデル

公教育とは別に教育を提供する学習塾には、多数の生徒に対して一斉に講義を行う集団指導スタイル、特定の生徒に対して個別に指導を行う個別指導スタイル、DVD・ウェブなどを活用して講義を行う遠隔講義スタイルなど種々のものが見られます。

しかしながら、そのビジネスモデル自体は、いずれも共通します。すなわち、生徒に対して講師が講義・指導を行い、講義・指導の難易や分量に応じて授業料が支払われるという労働集約型モデルといえます。加えて、自社ノウハウをフランチャイズ化し、ノウハウの提供を行うビジネスモデルも非常に多い業界です。

このなかで、各事業者は、学習塾の運営において、講義・指導の高品質化(有名講師の招聘や、指導実績の強調)やターゲットの特定化(指導目的の強調、地域ブランドの活用)などによって、顧客を獲得することになります。

学習塾業界のM&Aの活発化

学習塾は、講義を提供する講師を集めることができれば参入が容易な業界であり(大学生の主要なアルバイト先でもあることから、講師の募集も容易です)、また法令による参入規制も特にないため、参入障壁が低い業界であるといえます。

このため、学習塾の事業者数が減らない一方で、主な顧客である小学生・中学生・高校生は、少子化の影響により減少しつつあります。この状況において、学習塾が供給過多であるという指摘も各種報道でされるところです。

以上を踏まえると、学習塾業界のM&Aは、今後、活発化されることが予想されます。なぜならば、いずれの事業者も少子化を踏まえて顧客の獲得が懸念されるところであり、地域において顧客を保有する事業者とM&Aを行う必要が生じてくること、オンラインその他の方法による教育指導・教育管理などがスタンダードとなりつつあり、これを行うためのノウハウを獲得する必要が生じてくることなどが想定されるからです。

学習塾業界のM&Aにおける最大の留意点

このような学習塾業界のM&Aを行う中で、最も留意すべき点は、労務面であると思われます。学習塾の基本的なビジネスは、大学生アルバイトや、社員等の従業員による教育指導の提供にあります。学習塾ビジネスにおいては、この従業員に対する給与が固定費となり、利益を圧迫することになります。

そこで、各事業者において固定費を下げる種々の努力を行うところです。しかしながら、このために、労働条件の明示が適切になされていない事例や、講師が授業以外の時間に行った質問対応や報告書の作成等に要した時間が労働時間として適正に把握されず、この時間に対する賃金が支払われていない事例など、学習塾ビジネスにおいては、労務管理が不適切である場合が少なくありません。

また、労働条件が買収元・買収先とで異なる場合、労働条件の切り下げなどが検討される必要があります。このための手続きも適切に確保する必要があります。

労務管理が不適切である場合のM&A上のリスク

M&Aを行う場合、通常、デューデリジェンスといって買収先企業に法務・財務などに問題がないかが審査されます。法務面のデューデリジェンスにおいては、労働基準法その他の法令が適切に遵守されているか否かが主要な審査項目の一つとなります。

仮に、労働基準法その他の法令が適切に遵守されていない場合であれば、多額の未払い賃金の請求がされるなどといったリスクがあります。M&Aに際しては、表明保証条項として、訴訟・紛争を受けることがない旨が確認されますので、未払い賃金の存在がM&Aの成約後に発覚した場合には、損害賠償の対象になり、悪質な場合には解除されるリスクもあります。

労働条件の切り下げ

M&Aに際して行う労働条件の切り下げであっても、通常の切り下げと同様に、容易にできるものではありません。そのため、従業員の個別の同意を獲得しなければならないことが通常です。

労働条件を合わせるために切り下げが行われる場合も、M&Aを行う契約書には、表明保証されることになりますので、適切に対処される必要があります。従業員の特性を踏まえて、具体的なスケジュールや、説明方法などを検討する必要があります。

今回は、労務面に特に注目して学習塾のM&Aを概観しました。ご参考になれば幸いです。

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