プロコメ

2018.2.21

花王によるOribe Hair Care社の買収

2018.2.21

高級ブランドの買収における法的課題――花王のオリベ買収

加藤一真
加藤一真 弁護士 プロフィールを見る

ニューヨークの高級ブランドの買収

花王株式会社(「花王」)は、2017年12月21日、Oribe Hair Care, LLC(「オリベ」)の買収を発表した。オリベは、キューバ出身のヘアスタイリストであるオリベ・カナレス氏ら3名が2008年に米国ニューヨークで立ち上げた企業で、ヘアサロン向けの高級ヘアケア製品などの製造販売を行っている。今回の買収金額は、公表されていないものの500億円程度とされ、花王の海外企業を対象とするM&Aとしては過去最大の規模と報道されている。

今回の買収は、花王の米国子会社であるKao USA Inc.(「米国花王」)が買収側当事者となり、オリベを保有していた米国Luxury Brand Partners, LLCとの間で買収契約を締結することで行われた。買収の完了後に米国花王がオリベの持分をどの程度の割合で保有することとなるのかは明らかにされていない。米国花王は、サロン事業としてすでにゴールドウェルやKMSというブランドを保有しているが、そのうちゴールドウェルがオリベと2015年から提携関係にあったことから、今回の買収へと話が進んだようである。

花王の狙いと課題

花王は、2017年から4か年の中期経営計画において、「欧米コンシューマープロダクツ事業の高利益化(営業利益率10%)」という目標を掲げている。オリベの買収は、かかる目標の達成に向けられたものである。花王は、オリベの有するブランドを「スーパープレミアムブランド」と位置づけており、オリベの買収により米国での営業利益率の改善を目指すことになる。

オリベの創業者の1人であるオリベ・カナレス氏は、多数のトップモデルや女優を顧客とする「カリスマスタイリスト」とされている。オリベは、カナレス氏の名前を社名として、同氏のカリスマ性を全面に押し出して、1本1万円という高額のシャンプーなどを販売している。花王による今回の買収は、このようなオリベの高級ブランドの維持及び発展を前提としている。

もっとも、オリベがターゲットとしている高級ヘアサロンの中には、オリベの高級感が失われていくことを懸念する声が出ているようである。かかる懸念は、オリベの製品がヘアサロンだけでなくアマゾンなどでも近年幅広く販売されるようになり、さらにオリベ自身が花王という日用品の大手企業に買収されたことを受けたものである。

M&Aにおけるブランド価値の維持

では、オリベのような高級ブランドを対象としたM&Aを行う場合、買収側として、当該ブランドの高級感が損なわれないよう法的に手当てすることは可能であろうか。

一般にブランドとは、商品や役務に商標を付すことによって、当該商品や役務、さらにはこれらを提供するビジネスに対する特定の優良なイメージを消費者に与えるものである。ブランドの価値を形成し、維持するための要素には様々なものが考えられる。①当該商標の登録をしておくことは当然であるが、それ以外に例えば、②商品や役務の品質、③商品や役務の価格帯、④流通経路の選別、⑤販売体制の充実、⑥ビジネスの象徴となる拠点の確保、⑦ビジネスにおけるキーパーソンの確保などが挙げられる。

このうち、①については、買収側の弁護士による対象会社の精査作業である法務デューディリジェンス(「DD」)で不備がないか精査され、買収契約の表明保証条項(例:「売主は、対象会社の別紙商標がクロージングにおいて適法かつ有効に登録されていることを表明し保証する。」)などで有効性が担保される。もし法務DDで商標登録に不備があることが判明すれば、その手当てがクロージング(M&Aの実行)の前提条件とされる(例:「売主は、クロージングまでに、別紙商標をすべて適法かつ有効に登録するものとする。」)。

また、②~⑥については、基本的には(M&A以前の水準をいかに維持するかという)クロージング後の当該ビジネスのオペレーションの問題であるが、M&Aの時点での法的な手当てとしては、対象会社の支配関係の変更により影響を受ける取引(例えば、対象会社と流通業者との間の基本契約で、対象会社の支配株主に変動があることを解約事由としているものなど)が存在しないかを法務DDで精査することや、既存のビジネスに変更を加えないことをクロージングの条件とすること(例:「売主は、クロージングまでに、対象会社に通常の事業運営の範囲を超える資産や負債を取得させないものとする。」)などが考えられる。

キーパーソンの確保

以上に対し、⑦のキーパーソンの確保は、悩ましい問題となることがある。キーパーソンが買収先の当事者(例えば、対象会社の株主)である場合は、買収契約において、一定期間対象会社に関与し続けることを約束させることが可能である。ただし、かかる拘束も一定期間に限られ、あまりに長期間拘束することは無効とされるリスクがある。

キーパーソンが買収先の当事者ではなく、対象会社の役員や従業員である場合は、買収契約で直接引き止めることはできない。この場合、キーパーソンを法務DDでインタビューして対象会社に留まる意思を確認することや、対象会社がキーパーソンとの雇用契約等により一定期間の在籍を確保することをクロージングの条件とすることなどが現実的な対応となる。事案によっては、キーパーソンが退職してしまった場合に生じる損失を買収先に補償させることや、かかる場合に対象会社の買戻しを買収先に約束させることもあり得る。

オリベの場合は、創業者3名のうちの1人、ダニエル・ケイナー氏が、花王による買収後も引き続き社長を務めるようである。もっとも、ブランド名の由来となったオリベ・カナレス氏が今後どのように関与するかは明らかにされていない。仮に買収後はカナレス氏がオリベに関与しないのであれば、花王としては、少なくともオリベと競合しないことを別途契約でカナレス氏に義務づけたいところである(なお、競合の問題ではないが、今回の買収が公表された後、カナレス氏が不適切な画像をSNSに投稿してオリベのイメージを損なったとして、ケイナー氏らから訴えが提起されたとの報道がある)。

おわりに

今回のオリベの案件のような高級ブランドの買収に限らず、M&Aにおいては、対象会社の事業内容に応じてカスタマイズされた契約が必要となる。また、今回のようなクロスボーダー案件では、海外の法制が日本と全く異なるリスクもある。買収側には、案件を成功させるため、M&Aに精通した弁護士の支援を受けつつ、慎重かつ細やかな対応が求められる。

その他専門家コラム

最新のプロコメテーマ