プロコメ

2018.4.20

ピーチとバニラエアの経営統合について

2018.4.20

Peach Aviationとバニラ・エアの経営統合の背景

中島成
中島成 弁護士 プロフィールを見る

 2018年3月22日、ANAホールディングスが、LCC(格安航空会社)のPeach Aviationとバニラ・エアを2019年度末を目処にPeachを基盤として統合する。ANAホールディングスはPeachの持ち株比率を67%から77・9%に引き上げる、と発表した。
 Peachは関空を拠点とするANAホールディングスの連結子会社であり、バニラは成田を拠点とするANAホールディングスの100%子会社である。ANAホールディングスは、統合の目的は、互いの強みを融合して競争力を高め、中距離LCC分野に進出して日本とアジアをつなぐ路線の拡充を図ることと発表している。
 この統合の背景を、両社の財務の面と海外資本の国内LCC参入規制の観点から考えてみる。

【財務の面】

 バニラ・エアは、2011年8月にマレーシアのエアアジアと全日空が共同出資して設立したエアアジア・ジャパンとしてスタートした。しかし、エアアジアはわずか2年後の2013年に撤退し、ANAホールディングスの100%子会社であるバニラ・エアとして再スタートを切っている。
 決算公告によれば、2013年3月末日までの1年間の売上げは約34億7000万円、営業損失約33億9000万円、バニラ・エアに変わった後を含む2014年3月末日までの1年間は売上げ約65億9000万円、営業損失約56億9000万円となっている。立ち上げ早々だったこともあり、エアアジアが撤退した理由は営業成績以外の理由があるように思われるものの、LCC事業の展開が期待どおりに行くかはそう楽観を許さない見通しでもあったと思われる。

 現にその後、翌2015年3月期、売上げは約123億円に大幅に上がったものの約37億6000万円の営業損失、翌2016年3月期には売上げ218億円で約15億円の営業利益を出しながら、翌2017年3月期には売上げ約240億円でも再び営業損失6000万円、当期純損失約7億1000万円を計上している。そして設立後6年近くを経たこの時点でも、負債総額約109億円、資産総額約139億円で資産から負債を引いた純資産約30億円は、資本金と資本準備金の合計額150億円を大幅に下回る状態で、資本の欠損が生じている。
 資本の欠損は、債務超過につながりかねない状況を意味し、2016年3月期にようやく出た営業利益も翌期にまた営業損失計上となったことも併せ考えれば、バニラは、単に資本を増強するという対策だけでなく、抜本的な経営改善が必要になってきていたと考えられる。

 これに対し、Peachは、バニラ・エアよりわずか6ヶ月前の2011年2月にANAホールディングスと産業革新機構らの出資で設立され、2013年3月期で売上約144億円、営業損失9億6000万円だったものの、翌2014年3月期は売上約306億円、営業利益約20億円、その後も売上、営業利益共に右肩上がりを続けて2017年3月期では売上約517億円、営業利益約63億円、当期純利益約49億円となった。この期の資産総額は約414億、負債総額約209億円で資産が負債を約205億円上回る。この数字は、資本と資本準備金の合計はバニラと同じ150億円なのに、その額を約55億円上回り健全な経営を拡大している。

 したがって、財務面からPeachとバニラの事業統合をみれば、ビジネスモデルや豪カンタスグループ・日本航空系のジェットスターとの競合等から、なかなか十分な利益を出せないバニラが、必要な抜本的な経営改善を試みるために行われると見ることができる。
 必要な抜本的経営改善として目指されるものが何かについては、ANAホールディングスの発表によれば、その最大のものは中距離LCC路線への進出ということになる。ただその前提として、国内外において海外LCCと競争できる低額の運賃設定が、M&Aのシナジー効果としての規模拡大によるコスト削減等で可能となるかがまずは課題となるだろう。

【海外資本の国内LCC参入規制】

 バニラが十分な営業利益を上げるのに苦戦をしていた理由は、同じ2011年に豪カンタス航空、日本航空などの出資で設立されたLCCであるジェットスタージャパンとの競争も要因だったと考えられる。ジェットスターは、決算公告によれば2017年6月期で売上約528億円、営業利益約11億円で、売上としてはPeachより大きく、国内LCCで最大である。

 このジェットスターもオーストラリアのカンタス航空が日本航空等と共同出資して日本に進出したLCCであり、今後も海外LCCが日本に進出して国内LCCとの競争が激しくなる可能性は否定できない。バニラ自身も設立当初はマレーシアのエアアジアと全日空の共同出資だった。マレーシアのエアアジアの日本再進出も報道されている。はたして海外資本が日本LCC業界へ進出することは法的に容易なのだろうか。

 この点、航空法は、航空運送事業を日本で経営するには国土交通大臣の許可が必要とし(100条)、その許可基準として、外国法人は許可申請ができないとしている(101条、4条)。しかし、日本で設立された法人で海外資本が議決権の3分の1以上を占めていなければ許可申請ができるとしており(101条、4条)、海外資本もこの要件を満たせば日本のLCC事業に進出できる。したがって、海外LCCが全日空、日本航空以外と提携して新たなLCCを日本に設立することは、法的にはそれほど困難ではないことになる。実際、ジェットスターもバニラもPeachも海外資本の議決権割合は3分の1未満で設立、運営されている。
 今回の統合でANAホールディングスがこの点を意識したかは不明であるものの、国内LCC競争相手として、外国資本と日本資本の共同出資会社の出現は今後もあり得る。

 なお、Peachがバニラの事業を事業譲渡や会社分割、合併で引き継いだ場合、バニラの有していた路線はPeach側が引き継ぐことができる(航空法114条、115条)。今回の統合もこれが前提である。

【最後に】

 Peachとバニラの経営統合は、両社の強みを生かし、中距離路線に進出するためとANAホールディングスは発表している。しかし、財務面からみると健全な経営に十分な利益をあげていくことに苦戦したバニラに対し、比較的早い段階で救済手段を講じたもののようにみえる。新たな海外LCCの日本進出もあり得ることも視野に入っていたのかもしれない。
 アジア中距離路線への進出という大きな目標は、海外LCCとの競争を考えれば、今回の統合のシナジー効果によって低価格運賃をどれだけ実現できるかという点にかかっていくように思われる。              以 上

その他専門家コラム

最新のプロコメテーマ