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2018.5.9

マネックスグループによるコインチェック(CoinCheck)の買収

2018.5.9

マネックスグループによるコインチェック(CoinCheck)の買収

藤原宏高
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第1 はじめに

2018年4月6日,オンライン証券会社であるマネックス証券などを運営するマネックスグループ株式会社(以下「M社」という)とみなし仮想通貨交換業者のコインチェック株式会社(CoinCheck社,以下「C社」という)は,共同で,M社がC社の全株式を買収し,M社がC社を完全子会社化すると発表した。
 M社といえば,ゴールドマン・サックスのゼネラルパートナーだった松本大氏とソニー株式会社がネット専業証券として1999年4月に設立した旧株式会社マネックスを母体とし,その配下に,現在のマネックス証券株式会社などの事業会社を複数構成している。最近では,グループ内の子会社を通して,仮想通貨取扱業に参入すると表明していた矢先である。
 他方,C社といえば,2018年1月26日に外部からの不正アクセスにより巨額の仮想通貨NEMの不正送金事件を発生させたことで,金融庁から二度にわたり業務改善命令を受けた会社である。流出したNEMは,5億2300万XEMで,当時の交換レートで580億円相当に上ると報道されている。C社は同年1月26日にNEMの取引及びすべての仮装通貨の出金を停止した。
 その後,C社は2018年3月に対象となるNEMの保有者26万人に対して,総額約460億円の補償金の支払いを日本円で行ったと報道されている。
 しかし,C社は同年3月12日から一部の仮装通貨の取引を再開したものの,M社による買収が発表された2018年4月6日の直後ですら,再開されていないサービスが多く残っている。以下に述べる仮想通貨交換業者としての登録申請手続の中で,最終的には金融庁の指導に従って判断するものと思われる。

第2 仮想通貨交換業者に対する規制

 仮想通貨は,ブロックチェーン技術を用いていることから,仮想通貨自体が攻撃されたわけではなかったものの,仮想通貨交換業として登録申請中のC社が外部からハッキングを受けたことから,仮想通貨交換業を規制している金融庁の監督内容が注目を浴びた。
金融庁が2017年4月1日に改正して施行した資金決済法では,仮想通貨交換業は登録制となり,分別管理や安全管理措置等が義務づけられたが,既存の仮想通貨交換業者は,みなし登録業者として6ヶ月間登録が猶予されており,C社をはじめ,いくつかの仮想通貨登録業者は,改正資金決済法施行後も,引き続き仮想通貨交換業を営んでいた。ハッカーは,セキュリティ管理の甘い業者を狙い撃ちにして,仮想通貨を不正に流出させたものと思われる。ある意味では,日本の法規制の甘さが災いしたとも言えよう。金融庁は,改めて,仮想通貨交換業(みなし登録業者)に対する規制の遵守を求めざるを得ない事態となった。

第3 C社買収のリスク

1.被害者への損害賠償リスク

C社に対して,すでに被害者弁護団が訴訟を提起しており,その訴訟リスクがどれくらいになるのか,損害賠償金は誰が負担することになるのか,C社を買収するに際しては,重大なリスクであったと思われる。
 この点,報道では,M社の松本社長は「訴訟リスクは弁護士とも話し,最大でも10億~20億円」との見方を示し,誰が負担するかについても「既存株主が負担することになる」と述べたとのことである。これを法的に分析すれば,M&Aの株式譲渡契約の中で,買収後のC社が負担した損害賠償金については,C社の株式を売却した売主側が負担するとの取り決めが含まれていたことになる。もちろん,実際に巨額の賠償金となれば,売主が負担しきれない事態に陥ることは容易に想定できるので,賠償額の上限の見極めが重大なポイントであったことは疑いがない。

2.登録業者への登録が認められないリスク

 金融庁はC社に対し,実効性のあるシステム管理態勢の構築や再発防止策の他,経営管理態勢の強化及び経営責任の明確化まで求めていた。したがって,資金を投入して必要なセキュリティ体制を構築するのみでは足りず,現経営陣による経営体制の抜本的な見直しまで求めていたようである。
 この点は,買収するM社にとっては好都合であったと思われる。なぜなら,M社が買収することで,金融庁から仮想通貨交換業者としての登録が認められる可能性はより高まると思われるし,実際に,金融庁と詳細な摺り合わせを行うことにより,M社は,かかる登録リスクは確実に除去できると判断したものと思われる。

第4 買収価格36億円の妥当性

 C社の買収価格は36億円であったと報道されている。
C社は,2014年にサービスを開始したベンチャー企業であり,ベンチャーキャピタルも出資していたが,業績は急速に拡大し,順調にゆけばC社の企業価値は2000億円~3000億円とも言われたようである。
 実際に,買収後,M社が発表したC社の業績は,2015年3月期の売上高は1億2300万円,当期純利益マイナス1000万円,2016年3月期の売上高は85億1100万円,当期純利益0円であったが,2017年3月期の売上高は772億3000万円,当期純利益4億7100万円であった。
加えて,C社の2018年3月期の業績予想では,驚くべきことに,ほぼ2ヶ月間近く業務を停止していたにもかかわらず,売上高626億円,不正流出事件の補償金として特別損失473億円を計上した上で,63億円もの利益を出すとのことである。要は,2018年度のもうけの大部分をハッキングにより盗み取られたものの,顧客への補償後も,2018年3月期の純資産額は,2017年3月期の純資産額5億4000万円を上回るというものである。
 これらの数字から読み取れることは,C社の利益率の高さであり,金融庁による登録拒否の可能性が高くなかったら,このような値段にはならなかったであろうということである。この点,M社の経営判断はすばらしいといわざるを得ない。
 ただし,M社の発表では,買収契約書には,「アーンアウト条項」が入っており,3事業年度の純利益の合計額の2分の1を上限として,その一定割合を売主に追加で支払う条件になっていたようである。
 したがって,今後C社が本来の収益力を発揮できれば,大きな追加支払が発生するので,買収金額は単に36億円ではなかったということになろう。

第5 M社のゆくえ

 M社が仮想通貨交換業者を買収した意義は大きいものと思われる。金融の世界が通貨を基準とした旧体制から,フィンテックをはじめとする新しい時代に走り始めた矢先である。今後,仮想通貨は規制の強化はともかくとして,金融業の一角を占めることは疑いがないであろう。
 M社は,買収したC社を「クリプトアセット事業」(暗号資産という意味であろうか)と位置づけ,企業価値の向上に務めている。実際に,M社の株価は,買収発表前は400円台前半であったものが,買収発表後は600円台に上昇している。
今回のM&Aの凄みは,仮想通貨交換業の事業構築にかかる時間を飛び越えて,M社を仮想通貨交換業者のトップグループに持って行く力を秘めているということである。
以上

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