富士フィルムとゼロックスの買収計画が二転三転している。
この中で、今月19日(2018年6月19日)、富士フィルムは、ゼロックスを提訴した。
この買収劇を巡るこれまでの流れを、時系列にすると以下のとおりである。
1月:富士フィルムがゼロックスの買収を発表
2月:ゼロックスの大株主カール・アイカーン氏が買収反対の共同声明。
ゼロックスがNY裁判所に提訴。
4月:NY裁判所が買収の差し止め仮処分
ゼロックスが大株主と和解合意
5月:ゼロックスが買収合意の解消を発表
ゼロックスが大株主との和解合意の失効により、買収の差し止め仮処分に対する上訴。
6月:富士フィルムがゼロックスを提訴。
ゼロックスの経営陣の買収に対する姿勢の変化を【推進・反対】で見ると、次のようになる。
1月:富士フィルムがゼロックスの買収を発表【推進】
2月:ゼロックスの大株主カール・アイカーン氏等が買収反対の共同声明【推進】
大株主がNY裁判所に仮処分申し立て【推進】
4月:NY裁判所が買収の差し止め仮処分決定【推進】
ゼロックスが大株主と和解合意【反対】
5月:ゼロックスが買収合意の解消を発表【反対】
ゼロックスが大株主との和解合意の失効【推進】
ゼロックスが買収の差し止め仮処分決定を不服として上訴【推進】
ゼロックスが富士フィルムとの買収合意を解消【反対】
6月:富士フィルムがゼロックスを提訴【反対】
上記の時系列を見れば分かるように、「物言う株主」の存在がこの買収劇に一役買っており、ゼロックスの経営陣は、「物言う株主」に翻弄されている。
大株主による買収の差止め仮処分が裁判所により決定されると、ゼロックス経営陣は、一転して大株主と和解した。この和解が失効すると、ゼロックス経営陣は、仮処分決定を不服として上訴するという「二転」をし、さらに、直後に大株主と和解して買収合意を解消するという「三転」を演じた。
買収劇で一役買っている物言う大株主は、買収対価が高値であれば認める旨の発言もしており、その狙いは、株式の売り抜けであると推測される。株式会社の原則のとおり、会社は株主のものである以上、このような短期的な利益を追求する姿勢を非難することはできない。
富士フィルムは、ゼロックスに対し、提訴をした。この訴訟の中で、富士フィルムとゼロックスとの間の買収合意の破棄が不当であることを主張することになる。この判断には、富士フィルムによるゼロックスの買収が合理的であるかなどもポイントになるものと思われる。
何より、長期的な利益を株主にアピールしていくことが重要になる。M&Aは、中長期的な企業運営が必要になるため、特に株主との意見対立が生じやすい。M&Aによる具体的かつ明確なシナジーを示す必要がある。
ゼロックスが大株主と再度の和解により、合意の破棄を明確にしたことにより、富士フィルムが対ゼロックス+大株主という構図が明確になった。
M&Aを成立させるための基本的なプロセスとしては、以下のようになる。
①基本合意
②詳細調査及び交渉
③最終合意
④手続きの実行
本件では、③の合意まで発表したうえで合意が破棄された。当然ながら、合意は拘束力を有する以上、一方的に破棄することはできない。
ゼロックスとしては、合意に基づく手続き上の瑕疵を主張し、これに対し、富士フィルムが損害賠償請求・違約金支払い請求をし、ますますの混迷を極める。
富士フィルムとしては、法廷での決着には時間もかかるため、訴訟を進行しつつ、大株主らから譲歩を得ることを目指していることも推測される。
日本の中小企業においても、全く縁のない問題ではない。M&Aのスキームによっては、日本の会社法上、株主総会決議が要求される。
M&Aでは、中長期的な戦略を描くことができるかが重要である。
以上