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2018.8.8

リクルートのM&A戦略について

2018.8.8

リクルートのM&A戦略について

中原 陸
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はじめに

昨年夏以降、「仕事探しはIndeed」というフレーズのテレビCM等で一躍日本国内でも認知度がアップしたIndeed。リクルートが2012年に約1,300億円を投じて買収した米国求人検索エンジンの運営企業である。今年5月にはIndeedの次なる打ち手として、求人企業口コミサイトを運営する米Glassdoor社を約1,270億円で買収することが発表された。
今でこそ海外M&Aが旺盛なイメージの強いリクルートだが、海外M&Aを積極的に行うようになったのは2012年と意外とその歴史は浅い。リクルートのM&Aはどのような歴史をたどってきたのだろうか。

人材派遣領域からM&Aをスタート

リクルートのM&Aによる拡大の歴史は、人材派遣領域からスタートする。リクルート事件およびバブル崩壊により積み上がった巨額の債務完済に目途がつきつつある2000年代前半、オリコの派遣子会社を始めとした数社の国内派遣会社の買収を行ってきたが、2007年には当時業界5位だったリクルートが業界1位のスタッフサービス・ホールディングスを1,700億円で買収、一気に国内1位の地位を確立し、業界に衝撃を走らせた。
当時、リクルートはメディア領域において「情報誌といえばリクルート」と言っても過言ではないレベルで国内での知名度を確立しており、日常消費領域を中心に紙からインターネットへの媒体切り替えにも比較的早く成功していた。一方、人材派遣領域ではマーケットの拡大、法規制の変化などにより競争が激化しており、業界5位のリクルートはM&Aを通じた業界内での地位確立の優先度を上げていた。

国内で確立した成功モデルを海外へ

国内人材派遣マーケットでの地位確立後、リクルートは米国の人材派遣会社を相次いで買収する。国内で確立した「ユニット経営」と呼ばれるリクルート独自のマネジメント手法(組織を小さなユニットに分割し、その組織単位で利益率/利益金額といった目標を置いてEBITDAマージンを主軸とした損益管理を行うマネジメント手法)を買収した海外子会社にも適用し、大幅なバリューアップを図るというM&A戦略である。
この戦略実現にあたり、リクルートは「2段階アプローチ」を採用している。まず、比較的小規模企業の買収やマイノリティ出資を通じ国内で培ったマネジメント手法やノウハウが海外でも通用することを検証した上で、大型買収や100%子会社化に踏み切る、というアプローチである。
例えば、海外派遣企業の買収を進めるにあたり、まず2010年に比較的小規模な米国派遣会社であるCSIを約28億円で買収、ここでユニット経営が海外でも有効であることを検証した後、2011年秋に米国派遣中堅のスタッフマークホールディングスを約240億円で買収、さらに2012年初頭にAdvantage Resourcing(米国・欧州)を約330億円で買収、その後2016年には欧州の上場大手派遣会社のUSG Peopleを約1,600億円で買収している。
また、2014年の上場後はメディア事業においても海外M&Aを加速させるが、ここでも「2段階アプローチ」が見られる。2015年春に独Quanndoo社(飲食店オンライン予約サービス)および英Hotspring社(美容オンライン予約サービス)を買収しているが、いずれも前年にコーポレートベンチャーキャピタル経由でマイノリティ出資を行い、リクルートが国内のホットペッパーグルメやホットペッパービューティーの事業モデルやそこで培ったノウハウが欧州でも通用することを検証した上で100%子会社化に踏み切っている。
 

Indeed買収の位置づけ

ところが、こうしたリクルート流M&Aとは性質を異にする大型案件が出現する。2012年のIndeedの買収である。Indeedのサービスは、求人サイト、人材派遣会社のサイト、企業の採用ページ等、さまざまな場所に点在している求人情報を1か所に集約するアグリゲーションテクノロジーが軸になっており、応募者とのマッチングアルゴリズムに非常に優位性があったことがリクルートによる買収の決め手となっていた。
Indeedのビジネスモデルは雇用決定の精度・スピードを上げるための「マッチングビジネス」であり、リクルートにとっては過去にノウハウを積み上げてきた事業領域と「人材」「マッチングビジネス」という共通項があるだけであったが、いきなり約1,300億円を投じた大規模買収に踏み切っている。長期ビジョンとして掲げる「2020年人材領域グローバルNo.1」の軸を「雇用決定者数」と置いているリクルートにとって、Indeedの獲得はビジョン実現に不可欠な手段だったのだろう。実際、リクルートは自らの営業ノウハウをIndeedに注入し、劇的にクライアント数、ひいては雇用決定者数を伸ばしている。
そして、Indeedを柱とするHR Tech(人材テクノロジー)領域では、このIndeedでの雇用決定数の成長をさらに決定的にするためのいわば「肉付け型」買収を行っている。2017年夏、スキル評価ツールInterviewedを運営するPrehire社を買収、応募者のプログラミング力・語学力・性格診断などをIndeedのサービスの中で行えるようにした。さらに今回のGlassdoor社の買収により、Indeedのサービスの中で求人企業の口コミまでをも一気通貫して応募者に提供できるようになり、雇用決定者数のさらなる拡大が予想される。

まとめ

リクルートがその歴史の中で国内市場での地位を確立してきた人材派遣やメディア領域では「2段階アプローチ」を取って一定のリスクコントロールをする一方で、昨今めまぐるしい進化を遂げるHR Tech領域ではスピード感を重視し、そのコアとしてのIndeed買収に一気に踏み切った、というM&Aスタイルの違いは、リクルートが今後の成長戦略の柱をどの事業領域に置く方針なのかを示唆しているかのようで興味深い。

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