プロコメ

2018.8.22

東京海上Hのタイとインドネシア損保買収について

2018.8.21

保険会社による会社買収に関する法規制

上木 英典 HidenoriUeki プロフィールを見る

1 はじめに

  2018年6月19日、東京海上ホールディングス株式会社(東京海上HD)が、グループ会社東京海上日動火災保険株式会社を通じて、豪州Insurance Australia Limited社(IAG社)から、同社傘下のタイ、インドネシアの損害保険現地法人を総額5億2500万オーストラリアドル(438億円)で買収することでIAG社と合意したと発表した。このM&Aが実現すれば、東京海上HDは、東南アジア最大の損害保険市場であるタイにおいて外資系としては1位の損害保険グループとなる。
日本企業による海外進出(アウトバウンド)型のM&Aが急増する昨今、業界特有の法規制にも目配りが必要なことを示す好例である。

2 保険業法による子会社業務範囲規制

  保険業法106条1項は「保険会社は、次に掲げる会社(子会社対象会社)以外の会社を子会社としてはならない。」として、保険会社が子会社とすることができる会社の範囲を限定している。同条項は、保険会社の健全性を確保するための他業禁止(保険業法100条)の趣旨から設けられている規定であり、そのため、子会社が国内の会社か国外の会社かを問わず適用される。
ここで「子会社」とは、「会社がその総株主等の議決権の百分の五十を超える議決権を保有する他の会社」をいう(保険業法2条12項)。また、会社及びその一若しくは二以上の子会社又は当該会社の一若しくは二以上の子会社がその総株主等の議決権の百分の五十を超える議決権を保有する他の会社は、当該会社の「子会社とみなす」とされている(同項後段)。そこで、例えば、保険会社の子会社の子会社、すなわち、保険会社からみれば孫会社に相当する会社もまた、「子会社」として保険業法106条1項の子会社業務範囲規制の対象となる。

【子会社の範囲(例示)】

3 本邦保険会社による海外企業の買収

  子会社業務範囲規制は、本邦の保険会社が外国の保険会社を買収する局面で支障となりうる。例えば、本邦保険会社A(A社)が外国(F国)の保険会社B(B社)を買収しようとする際、B社がC社を子会社として有している場合、A社がB社を買収すると、C社は、保険業法2条12号により、A社の子会社とみなされることとなる。そのため、C社が同法106条1項に列挙された会社(子会社対象会社)以外の会社(他業子会社)である場合、B社の買収をA社が完了する前にC社をB社のグループから切り離すことが必要となる。
一方、諸外国では、本邦の子会社業務範囲規制と類似の規制が無かったり、本邦の規制ほど厳格な規制が設けられていないことも多い。
このため、そのような国(前記のF国、或いは第三のE国)の保険会社(D社)と本邦の保険会社A社がB社の買収を巡って競合した場合、本邦保険会社A社は、買収交渉において不利であった。

【平成24年改正前の状況(例示)】

4 平成24年法改正

  上記のような本邦保険会社の不利な立場を解消することも視野に入れ、平成24年、保険業法が改正された。平成24年改正により、買収対象の会社が「外国の」保険会社である場合、当該会社が他業子会社を保有する場合であっても、当該会社を子会社にした日から原則として5年が経過する日までに当該他業子会社が子会社でなくなるよう所要の措置をとりさえすれば、これを買収前に切り離さずとも、外国保険会社を買収できるようになった。例えば、買収の対象となる外国保険会社(B社)が、他業子会社(C社)を保有する場合であっても、買収に際して、B社からC社を切り離す必要はなくなり、買収後(B社がA社の子会社となった日から)原則として5年を経過する日までに、C社が(A社の)子会社でなくなるような措置を講ずれば足りることとされた(保険業法106条4項)。

【本邦保険会社による海外保険会社買収に係る規制緩和】
〔改正前〕          〔改正後〕
         

  今回、東京海上HDは、タイ及びインドネシアの保険会社(それぞれを「買収対象保険会社」という。)の株式をそれぞれ98.6%及び80%取得すると発表しており、買収対象保険会社が子会社を保有している場合には、タイ、インドネシアそれぞれの買収対象保険会社について子会社業務範囲規制がかかる。しかし、上記法改正により、仮に、買収対象保険会社の保有する子会社が他業子会社である場合であっても、東京海上日動火災は、2社の買収に先立ち、当該2社のそれぞれが保有する他業子会社を買収対象保険会社の傘下から切り離す必要はなく、買収後5年をかけてゆっくりと切り離せば足りることとなる。

5 おわりに

東南アジア市場の成長は著しく、これに伴い、日米欧の損保大手が相次いで東南アジア市場に参入しており、新興市場を巡る攻防はますます激しさを増している。保険業法の改正により法的障壁が解消されたことを追い風に、今後ますます本邦の保険会社がグローバル市場において競争力を付けていくことが期待される。
本邦企業が海外の企業を買収するM&Aにおいては、買収対象企業が本邦の会社の場合(国内完結型M&A)とは異なり、次なる3つの追加的法規制に注意が必要である。
① 買収対象企業に適用のある該当国の法規制
② 買収対象企業の親会社となることに伴い、当該親会社に適用が生じ  
る該当国の法規制
③ 海外企業の買収することに伴う本邦の法規制
 また、上記3つのそれぞれにおいて、買収・被買収企業の該当・関連する業務の分野(例えば、本稿で取り上げた保険業)に特有の法規制もありうる。
 アウトバウンドのM&Aに際しては、専門性の高い弁護士らのアドバイスを受けることが肝要である。
以 上

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