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2018.9.26

楽天のみんなのビットコイン買収について

2018.9.26

楽天の「みんなのビットコイン」の株式取得と仮想通貨交換業を巡る現在の環境

河本秀介
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1 楽天による「みんなのビットコイン」の株式取得

楽天株式会社は、本年8月31日、トレイダーズインベストメント株式会社との間で、同社が保有するみんなのビットコイン株式会社の全株式を取得する内容の株式譲渡契約を締結したことを公表しました。なお、直接の株式譲受人は、楽天の子会社である楽天カード株式会社とされています。
みんなのビットコインは、インターネット上で仮想通貨の取引所を運営する仮想通貨交換業を営む株式会社です。
楽天は、株式譲渡契約の締結の目的として、「将来的にEコマースや実店舗での決済手段として仮想通貨による決済機能の役割が大きくなると見込まれるところ、仮想通貨の決済手段を円滑に提供してゆくためには、仮想通貨交換所機能の提供が必要である」ことを挙げています。

2 みなし登録業者としての取引所運営

  拙稿「渦中のコインチェックを買収したマネックスグループ」でも触れた通り仮想通貨の取引所を開設し運営する場合、改正資金決済法の下で仮想通貨交換業の登録を受ける必要があります(資金決済法63条の2)。
  これに対して、みんなのビットコインは、本稿の執筆時点(2018年9月26日)では、仮想通貨交換業の登録を受けていません。
前記事で解説した通り、法改正の施行日において現に仮想通貨交換業に該当する業務を行っていた業者は、経過措置により、法改正の施行日(2017年4月1日)から6か月以内に仮想通貨交換業の登録を申請した場合、登録の可否についての判断がなされるまでの間、未登録の状態で仮想通貨交換業を行うことが可能です(いわゆる「みなし登録」)。
みんなのビットコインは、法改正の施行日の前日である2017年3月31日に仮想通貨交換業を開始し、以後、みなし登録業者として業務を行ってきました。また、2017年9月7日に、仮想通貨交換業の登録申請を行っており、現在、登録可否の審査中です。
今後楽天が、みんなのビットコインにより仮想通貨交換業に本格的に参入するためには、同社において仮想通貨交換業の登録を完了させることが必要です。

3 仮想通貨交換業の登録を取り巻く現状と登録に向けた課題

金融庁は、2018年2月の時点でみなし登録業者として仮想通貨交換業を行っている全15社の社名を公表しており、みんなのビットコインはそのうちの1社に含まれます。
その後、みなし登録業者の中で仮想通貨交換業の登録を受けた事業者は本稿執筆時点で登場していません。また、みなし登録業者15社のうち12社は登録申請を自主的に取り下げるなどして、仮想通貨交換業の登録を断念しています。
そもそも、仮想通貨交換業の新規登録自体も、2017年12月26日を最後になされていません。金融庁は、本年1月に起きたコインチェック社の不正流出事件以来、仮想通貨交換業の登録を事実上停止している状態にあります。

また、みんなのビットコインは2018年4月25日、金融庁の立ち入り検査により管理体制の不備を指摘されており、適正かつ確実な業務運営を確保することを目的とした対応を取るよう、以下の業務改善命令が下されています。
I. 経営管理態勢の構築
II. マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係る管理態勢の構築
III. 帳簿書類の管理態勢の構築
IV. 利用者保護措置に係る管理態勢の構築
V. システムリスク管理態勢及び外部委託先管理態勢の構築
VI. 上記I.からV.までの事項について、講じた措置の内容を平成30年5月14日まで及び当局の求めに応じて随時に書面で報告
みんなのビットコインの仮想通貨交換業の登録に向けた課題として、金融庁が登録に慎重な姿勢をとる中、業務改善命令において指摘された各項目について、管理体制を着実に強化してゆく必要があります。

4 株式譲渡に向けた両社の思惑と今後の展望

本件の株式譲渡は、仮想通貨交換業やみんなのビットコインを取り巻くこのような環境下でなされました。
売主側であるトレイダーズインベストメントは、株式譲渡に至った理由として、前述の環境下で仮想通貨交換業の登録を受けるためには、「人員の大幅増員やシステム面の強化・改善、セキュリティ対策のより一層の向上、利用者保護のための様々な関連措置等を実施していくことが求められ、そのために投入すべき資金コストを考えると同社グループ内での仮想通貨事業の採算性が低下することになる」ことを挙げています。
他方、買主側である楽天は、冒頭で述べた通り仮想通貨の決済機能の将来性に着目していることを表明しています。
現在の仮想通貨は価格変動が大きく、決済手段という本来的な役割での活用が難しいのが実状です。しかしながら今後、仮想通貨が決済手段として本格的に活用されるようになった場合、各種オンラインサービスを提供する楽天としては、グループ内に仮想通貨交換業者を有していることは大きな強みになるはずです。
仮想通貨を巡る環境は依然として流動的であり、本年9月20日には、テックビューロ株式会社が運営する大手仮想通貨取引所Zaifがハッキング被害にあい、顧客の預かり資産45億円を含む67億円相当の仮想通貨が流出したことが公表されました。
これにより、登録審査に際して、みんなのビットコイン社の業務改善命令でも指摘された利用者保護措置に係る管理体制の構築や、システムリスク管理体制がさらに厳格に求められることも想定されます。株式譲渡を受ける楽天側としては、仮想通貨交換業の登録に向けた課題が一層重くなった格好といえるでしょう。
楽天が傘下のオンライン金融業等で培ったノウハウを十分に活用し、仮想通貨交換業の登録に向けた事業体制を確立できるかが、今後の着目点といえそうです。

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