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2018.11.28

やまやとチムニーの居酒屋「つぼ八」買収について

2018.11.28

「やまや」と「チムニー」による「つぼ八」の買収にみる居酒屋戦国時代の到来」

鼎博之
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日本の居酒屋の活況

10月29日、株式会社やまやとチムニー株式会社は、株式会社つぼ八の買収を発表した。やまやは、酒類・輸入食品を中心として、全国で330店の嗜好品専門店を展開している。また、チムニーは、「はなの舞」「さかな道場」などの居酒屋を中心に全国47都道府県で直営店・フランチャイズ店などを含めて747店舗を展開している。
一方、買収対象となった株式会社つぼ八は、居酒屋「つぼ八」「伊藤課長」などの居酒屋を中心として、241店舗(直営店・フランチャイズ店を含む)を展開している。今回の買収でチムニーとつぼ八は、合計988店舗を擁する日本有数の居酒屋チェーン店を有することになる。
居酒屋チェーンの店舗数ランキングTOP 10を記載すると次の通りである。
第1位 魚民   652店
第2位 鳥貴族  614店
第3位 やきとり大吉 607店
第4位 庄や   388店
第5位 養老の瀧 356店
第6位 八剣伝  343店
第7位 備長扇屋 318店
第8位 はなの舞 270店
第9位 赤から  257店
第10位 目利きの銀次 209店
出典http://ran-king.jp/izalaya-ranking-top10/

「和民」を創業した渡邉美樹は、当初「つぼ八」のフランチャイジーになって、居酒屋の世界に入った。彼が創業した「和民」「坐・和民」ブランドの居酒屋を合わせても137店舗であり 、単独ブランドで多くの居酒屋を展開するのがいかに困難であるかを物語っている。外食産業のブランド戦略としては、取り扱う食材によって異なる店舗名を使って、他の店舗との差別化を図り、消費者を飽きさせず、多様なニーズに応えるという方法をとっている。ひとつのビルの中に、すし屋、居酒屋、焼き鳥屋、イタリアンレストランが入居していても、経営しているのは同じ会社ということもある。いずれにせよ、「チムニー」と「つぼ八」は、合わせて1000店舗に近い外食チェーン店を傘下に持つことになり、日本の居酒屋は戦国時代に突入したとの感を深くする。

今回の買収の概要

やまやとチムニーのIR情報によると 、今回の買収によって、全国でグループ合計988店舗となり、国内居酒屋チェーンとして有数の規模を持つことになる。このような規模の利益を生かすことにより、物流、商品供給力、メニュー作成力、地域特性を生かした店舗営業力の強化を図るともに、東京関東圏に店舗数が多いチムニーと、北海道や郊外に店舗が多いつぼ八は、地域補完的関係にあることから、統合によるシナジーを図ることができるとしている。 

今回買収したつぼ八の事業内容を見てみよう。
開示資料によれば、過去3年間の営業結果の推移は次の通りであり、過去3年間で次第に売上金、利益とも減少している。             (単位百万円)
2016年3月期 売上高8,518 営業利益193  経常利益 224
2017年3月期 売上高 8,026 営業利益 157 経常利益 179
2018年3月期 売上高 7,575 営業利益 118 経常利益 143

つぼ八の親会社として、食品事業を扱っていた日鉄住金物産株式会社は、次のように今回のつぼ八の売却の理由を説明している。 すなわち、日本人のライフスタイルの変化や嗜好の多様化により外食産業を取り巻く環境が大きく変化をしてきたこと、居酒屋業界は仕入価格の変動や人手不足の影響に加え、他業種との競争の激化に直面していること、今後の成長を継続するためには、環境の変化に対応し、多様化する消費者の嗜好に応える必要があることから、新たなパートナーとして、酒類販売と外食事業に豊富な知見を有するやまや・チムニーグループが最適との判断に至ったとしている。

低価格の追求による居酒屋チェーンの競争激化

上記のように、魚介類とは別の食材を提供する居酒屋である焼き鳥居酒屋業界でもさまざまな変化が起きている。
2017年10月にそれまで全品280円均一から298円(税抜き)と28年ぶりの値上げをしたことがニュースとなった鳥貴族。2017年7月期末には、総店舗数は567店、2018年7月期には、ほぼ100店舗増加し665店を記録している。2017年7月期の売上高は、293億円で経常利益は14億円、2018年7月期の売上高は339億円(全事業年度比15.8%増)、経常利益は16.8億円(全事業年度比15.4%増)となった。
一方、関東圏で急激に店舗数を増加させている串かつ田中。価格帯は、1本100円から200円で、その中でも100円と120円の串かつメニューが半数以上を占めている。2016年11月期末には、総店舗数は131店、2017年11月期には、166店を記録している。2018年11月期には、55店舗の新規出店で、合計221店舗を計画している。2016年11月期の売上高は、39.7億円で経常利益は4.1億円、2017年11月期の売上高は55.2億(前事業年度比39%増)、経常利益は5.2億円(前事業年度比26%増)となった。
今回、やまやとチムニー連合が買収したつぼ八は、売上高が75億円で1.4億円の経常利益しか上げていないことから比較すると、串かつ田中の売上高は55.2億に対する経常利益5.2億円は、居酒屋業界としては理想的な経営成績を挙げているといえよう。

日本の6次産業化を牽引し、食文化の発展に寄与する居酒屋へ

上記で、鳥貴族や串かつ田中の好調な経営成績を取り上げたが、今回のやまやとチムニー連合によるつぼ八買収による居酒屋チェーン1000店舗網の構築は、日本の食文化の継続的な発展に寄与する重要な戦略の一環に寄与する動きであると思う。
チムニーは、漁業権や買参権(せりに参加する権利)を保有する特異な居酒屋チェーン店である。外食産業、特に鮮魚や野菜などを提供する居酒屋は、いかに新鮮な魚介類や野菜などの生鮮食材を消費者に提供するかが肝である。また、居酒屋事業は、農業や水産業という第1次産業、その加工業である第2次産業、そして調理した食べ物を消費者に販売するという第3次産業を融合した6次産業を実践することが可能な事業である。
具体例としては、愛媛県八幡浜漁業協同組合の漁業権を保有することにより、漁港で水揚げされた鮮魚をその日のうちに店舗に搬入し、そこで料理して消費者に提供することが可能になっている。また、島根県大田の買参権を活用して、あんこうなどの魚を調達することや新潟地方卸売市場での買参権により、「たら酒粕漬」用の真鯛を買い付けることも行っている。さらに、茨城県鉾田市の生産者との取り組みにより、現地で運営しているチムニー農場で栽培したレタス、モロヘイヤ、ベビーリーフ、水菜、赤みず菜、サニーレタスなどの旬の野菜を店舗で提供することにより、生産者が見えて身体に安全な食材を使用しているという安心感を消費者に与えている。
また、食べ物を提供する以外に、マグロの解体ショーや地元の神楽の舞をお客に堪能してもらうという物語性をもたせる趣向をこらすという努力も見逃すことができない。日本全体でも2018年の訪日客が3000万人を超えるというインバウンド需要が旺盛であり、食と伝統的芸能の体験という新たな日本の魅力を外国人客に提供している。現に、チムニーの高崎、山形、富山、広島、高松、出雲などの来店客が前期比114%、売上高が120%の増加を示していることでもインバウンド需要の増加が居酒屋の売上増加に寄与していることの顕著な証左を示している。
 今や日本食は、ヘルシーで、バラエティあふれる料理として世界中で受け入れられている。もちろん、伝統的な会席料理やすし店も重要ではあるが、手軽な価格で楽しむことができる居酒屋は、日本人にとっても外国人観光客にとっても魅力のある外食産業である。このように消費者にとって魅力のある業態が、農業や水産業という日本の地域社会における産業振興と結びつくことができるとすれば、日本の将来にとっても相当に意義のあることである。是非とも、日本の6次産業化を牽引し、食文化の発展に寄与する居酒屋が今後とも持続的発展を遂げることを祈っている。
(了)
 

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