プロコメ

2018.12.5

BANKのDMMから「CASH」買戻しMBOについて

2018.12.6

株式会社バンクのDMMからのMBOとMBO指針との関係

河本秀介
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1 DMM.comによるバンク株式の取得と売却

合同会社DMM.com(以下「DMM」といいます。)は本年11月7日、自ら保有する株式会社バンクの株式の全部を、公表前日の11月6日にバンクの創業者であり代表取締役である光本勇介氏に対して譲渡したことを公表しました。
バンクは、スマートフォンアプリによる買取サービスである「CASH」などを運営する会社です。CASHは、ユーザーが買取対象商品の画像を送信するだけで、即座に代金の支払いを受けることができる点が最大の特徴です。
CASHは、2017年6月にサービスを開始した直後に想定を大幅に超える取引が発生したため、即日サービスが停止したことでも話題になりました。その後CASHはサービス内容を見直し、8月にサービスを再開させています。
DMMは、バンクがCASHのサービスを再開して間もない2017年10月30日に、代表取締役の光本氏が保有していたバンクの発行済株式の全部を70億円で取得しました。
その後DMMは、バンクに20億円という多額の融資を実行し、同社の事業の支援を続けてきましたが、先日、突然、バンクの代表取締役である光本氏は、DMMが保有するバンクの全株式をMBO(マネジメント・バイアウト)の形式により再譲渡を受けたと発表しました。
DMM側も同取引について公表しており、それによるとDMMから光本氏に対するバンク株式の譲渡対価は5億円ということです。すなわち、DMMには単純計算で取得価格との差額の65億円の損失が生じたことになります。

2 バンク株式の再譲渡の理由

  光本氏は、今回のMBOの理由について、自身のブログで、バンクとしてはDMMグループから外れた方がよりスピーディな経営判断が可能だと判断し、光本氏側からDMMに申し入れたと説明しています。
  その一方で、DMM側がなぜ、光本氏の申入れに応じ、取得からわずか1年あまりで、買取時の14分の1という、破格とも思える価格でのMBOに応じたのか、詳細な理由は明らかにされていません。
DMMの創業者であり、会長の肩書を持つ亀山敬司氏も、本件の再譲渡について「敗軍の将語らずです。」などとするごく簡潔なコメントをSNSに投稿するのみで、判断に至った経緯や理由については説明を避けている格好です。

3 MBOを実施する場合の規律

  ここまでDMMの光本氏に対するバンク株式の譲渡を「MBO」として論じてきました。
改めて整理すると、経済産業省が以前に策定した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための 経営者による企業買収(MBO)に関する指針」によると、MBOは「現在の経営者が資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入すること」と定義されています。そうすると本件も、いわゆるMBO(マネジメント・バイアウト)の一種といえます。
  MBOについては、先ほど述べた経済産業省による指針が存在しており、MBOを実施する企業は株主保護を目的とした規律を守らなければならないとされています。
本件のMBOは極めて迅速に取り進められ、金額面でのインパクトも非常に大きい印象がありますが、指針による規律との関係はどうでしょうか。
  まず、MBOは、対象株式の取得者がその株式会社の経営陣であることから、株式取得者(買主)と株主(売主)との間に、必然的な利益相反関係が生じます。
そのため、経済産業省の指針は、企業がMBOを実施する場合に考慮されるべき2大原則として「企業価値の向上」と「公正な手続を通じた株主利益への配慮」を掲げており、それらの原則による視点から、次の措置を講じなければならないとされています。

① 株主の適切な判断機会の確保
② 意思決定過程における恣意性の排除
③ 価格の適正性を担保する客観的状況の確保
④ その他株主意思の尊重に向けた措置
  
  上場企業の経営陣が自社の株式を取得したあと、株式を非公開化するといった典型的なMBOの場合には、まずは「株主の適切な判断機会の確保」(①)のため、MBOの実施に先立ち、MBOの目的や実施内容を開示し、市場や株主に向けた説明を行うことになります。MBOの方法においても、株主による株主買取請求権の行使や価格算定申立を殊更に排除するスキームは避けられます。
上場会社のMBOでは、「意思決定過程における恣意性の排除」(②)のため、社外役員や第三者委員会等の第三者の意見を十分に踏まえたうえで意思決定を行い、実施価格についても独立性のある第三者評価機関の算定書を取得するなど、意思決定の中立性を維持する取り組みを行います。
さらには「価格の適正性を担保する客観的状況の確保」(③)のため、公開買付を行う場合に十分な買付期間が置かれます。
  上場企業のMBOの場合、このような措置を講じることになりますので、時間を掛けてスキームの検討を行い、株主に対するして十分な説明等を行う必要があります。

4 完全親会社からのMBOの場合

これに対して、今回のDMMから光本氏に対するバンク株式の譲渡は、株主がDMMの1社である点に特色があります。
上場会社による一般的なMBOが準備や実施のために十分な期間を置くのは、多数の一般投資家と経営陣との間で情報格差が大きいことや、投資家側に価格面で交渉力が無いことが重要な要素として考えられます。
100%株主、すなわち、完全親会社は、完全子会社への取締役派遣や定例の子会社からの報告等によって、その経営陣との間で情報の共有がなされています。
また、完全親会社が売主となるMBOの場合、MBOの条件に不服であれば、株式の売却に応じなければ良いだけです。つまり、経営陣を相手方として、株主側が価格面での交渉力も保持しています。
すなわち、今回のバンク社のMBOは、完全親会社から創業者取締役に対する株式譲渡が内容であるため、一般的なMBOに必要な株主利益に配慮した入念な準備等を行う必要性は低くといえます。
よって、株主に対する十分な説明や株主保護に向けた諸手続を経ることなく、迅速なMBOが可能であったと思われます。

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