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LINE Bankは、中国のキャッシュレス社会に追いつけるか?

小黒健三
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LINE Bankは、中国のキャッシュレス社会に追いつけるか?

LINEの銀行業参入、LINEと、みずほフィナンシャルグループとの提携による、「LINE Bank」に言及する際には、中国のキャッシュレス化の話をしないわけにはいかないだろう。その構想は、中国のキャッシュレス化社会と像が重なる。
私は2004年秋から約3年半上海に駐在をしていた。2018年の初頭に日本に戻った後10年の間にも年平均で5、6回は中国に渡航している。「中国の変化は激しいでしょう?」とよく聞かれる。確かに変化は激しい。ただし、古い町並みが消滅し高いビルが建った、とか、地下鉄や道路が整備されたという意味では、この20年間常にそうであり、都市部の風景の変化はむしろ日常化してしまっている。むしろ、中国時代の駐在仲間から言わせれば、都市の外観の変貌ぶりは、今の虎ノ門ヒルズ周辺からマッカーサー通り、渋谷、新宿、東京駅周辺の振れの大きさの方が、中国以上に驚きを覚えるほどのようだ。

近年の中国の最大の変化は、スマホ、SNSの利用と一体化したキャッシュレス化への急速な移行である。飲食店ではWeChat Payやアリペイでのスマホを通じた支払が主になっており、さらに言えば、スマホでデリバリーを注文し、会社や自宅前まで配達をしてもらい、スマホを通じて支払う、という場面が多くなった。店に出向いても、自分のスマホ上のアプリでメニューを閲覧し、注文を行い、店を出るときにバーコードで支払いを行う。
以前は、タクシーは手を挙げて止めるものだった。雨の日でのタクシー収奪戦は上海での恒例行儀だった。しかし、今は異なる。5つ星ホテルのコンシェルジェですら、自分の携帯やスマホからタクシーを呼びだす。流しのタクシーは殆ど見かけない。環境規制もあり、天気が許せば、スマホを通じてレンタサイクルで移動する。

これは、日本の交通系カード、おサイフケータイと大した違いはないではないか? 聞かれることがある。日本でもスマホでタクシーが呼べますし、そのまま払えますよ、と。確かに機能はそうである。ただし、中国のキャッシュレス化には大きな質的な違いがある。
中国のキャッシュレス化は、携帯・スマホ社会と完全に一体化し、社会インフラとして、都市部では現金の授受が殆どなくなってきていることだ。移動手段、食、コンビニや量販店での購入、ECサイト利用、生活上の殆どの場面で、お札や小銭を使うことなく、QRコードやスマホ操作で決済を行える点である。領収書もスマホに送られ、お年玉もスマホで振り込む。人の行動が変わることで、そこには心理的、質的な変化も伴っているように感じる。
日本でも、財布を持たなくても一日なんとかなる日もある。しかし、平日のランチでは現金しか受け取らない店は多いし、割り勘の際に全員がスマホ決済、という文化もないし、領収書も手渡しであったり、スマホだけで、行動の殆ど、決済から確認まで事足りる、ということは少ない。
他方、中国の都市部では、スマホだけを持っていれば、財布の存在を意識すらすることなく、殆どの日が終わっていく、である。

現金をやり取りする煩わしさ、現場に行ってみてから考える、そうしたことからの解放は、それがワンステップ、ツーステップの違いでも、人間の心理には決定的な違いを与えているように感じる。人は、交通カードが自動チャージされ、逐一切符を買う必要もチャージをする必要もないということだけで、外出をする意欲が上がっていく、という存在なのである。

中国のWeChatと多少は似た日本の存在は、そのユーザー普及率からみてもLINEとは言えそうである。LINE Bank構想におけるみずほとの連携により、LINEはWeChatにさらに少し近づける可能性がある。ただし、現状は、WeChat やアリペイなどを用いたときの利便性は、現状のLINEが生み出している状況とは比較にならないほどに高い。中国都市部では、電話会議やファイルの授受を含む仕事のコミュニケーション、プライベートでのやり取りはもちろん、金銭の決済や送金、あらゆることの予約、手続きがスマホで済むようになりつつあり、社会の仕組みがそれを支えつつある。LINEは、現状では、コミュニケーション・ツールであり、広告媒体の一つであることを出きっていはいない。社内インフラも、キャッシュレス社会に追いついていない。逆にメガバンクの金融力を加えたLINE Bankを成功させない限り、アリババやWeChatの影さえも踏めないだろう。その意味では、Line Bank行動は、理にかなったものだと思える。

中国の都市部で暮らしていれば、すべての行動は、WeChatやアリババに把握されていると思われる。どこに行き、何を誰と話し、何を買ったか。ユーザーの膨大な個人データは、すべて把握されている、と思われる。使っている側が、恐怖を覚えるぐらいである。しかし、使い慣れてしまえば、そのことすら気にも留めなくなるぐらいスマホに依存し、また、お金とか預金とかそういうことすらも、さほど意識はしなくなってくるのが不思議である。もしかしたら、LINE Bank であり、LINE Payの目指すところも近いところにあるのかもしれない。個人向けローンも、膨大な個人データがあれば、自然と広がっていくであろう。
日本の金融業は、信頼性・安全性は高い反面、インターネットは付随的なものだ。中国のような携帯・スマホを基軸に捉えた視点は薄かったはずである。LINE Bankは日本の社会インフラを変える起爆剤になる可能性は秘めている。
LINE Bankでの取り組みの正否を左右するのは、加盟店でない場所を見つけるのが難しい、というほどに加盟店を増やせるか、にあるのではないか。LINEの登録数は、8千万人弱と多いが、実際に、決済手段としても、それを少なくとも東京や大阪、名古屋のどこに行っても使えるようにできるか。商業銀行というよりは、交通系カードであり、コンビニ銀行的な視点が求められている気がする。中国の都市部に匹敵するキャッシュレス化社会には、まだ時間がかかるはずであるが、それを実現できる可能性があるものとしては、LINE Bankは期待できる存在ではありそうだ。

通常、私はDealに関連した財務会計の話を寄稿をするのだが、今回はそれよりは、中国世界を垣間見ているもの、という視点での記載となった。

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