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2019.2.20

オリオンビール買収について

2019.2.20

このユニークなM&Aが、沖縄の経済を救えるか?

金子博人
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沖縄を代表するオリオンビール(国内ビール5位)が、野村ホールディングのファンドである野村キャピタルパートナーズ(NCAP)と、投資ファンドの米カーラルグループに買収されることが発表された。19年1月23日のことである。
特別目的会社(SPC)(野村51%、カーラル49%出資)による公開買い付け(TOB)を行って、3月下旬までに発行済み株式の約91.5%を取得し、残りを相対で買い取って完全子会社化するとのことだ。そして、5年後に株式を公開することを目指すという。
ところで、オリオンビールは、非上場の閉鎖会社である。その閉鎖会社でTOBというのはめずらしい。また、オリオンビールは、資本金が3億3000万で5億円を超えておらず、かつ、株主が599人で1000人を超えていない。それがなぜTOBかといえば、既に有価証券報告書提出会社であるため(一度なると、免除事由が発生しない限り、提出義務が継続する)、公開買い付けの手続が、有価証券取引法上義務づけられているのだ(株式の3分の1以上を保持することとなる場合に義務づけられる)。

オリオンビールのスタートは、アメリカ統治下の1957年(昭和32年)である。沖縄の復興の柱の一つとして、地元の多くの人の出資をえて育てられ、その結果、株主が599人と、多数になった。しかし、その多くは老齢化し、創業利益を還元する必要が高まったので、今回のTOBとなったようだ。
とはいえ、創業利益還元のためなら上場という手段もあり、その方が一般的である。だが、今回は、ファンドがTOBで買収するというMBO(マネジメント・バイアウト。経営陣がファンド等の資金により経営権を買収)という手段を選択した。この方が、株主に多くの利益を与えられると判断したと思われる。
今回の買収総額は約570億とのことで、これは、簿価の純資産額534億4200万円を上回る。ところが、オリオンビールの現状からすると、上場した場合、これだけの売り出し価格を提案できないとの判断があったようだ。
確かに、オリエンタルビールの財務状況を見ると、売り上げが29年3月期で280億0900万、30年3月で283億1700万と微増しているものの、純利益は、28年3月期で35億4400万円、29年3月期で27億7600万円、30年3月期で23億0700万円と、三期連続で大幅に減少してる。このような状況だと、先行きの不安から、上場での売り出し価格は純資産額をかなり下回るのが普通で、それでは、旧来の株主に十分報いることはできないと考えたのであろう。

今回のMBOで注目すべきは、アサヒビールの去就である。同社はオリオンビールと02年から提携し、10%の株を保有する筆頭株主であった。となれば、MBOでは、同社が主役となっておかしくはないが、今回は逆に、株を全て売価して撤退するという。これは、ビール業界が置かれている厳しい状況がそうさせたと言うべきであろう。
ビール業界は、ビール離れの中で過当競争に苦しんでいる。前述の通り、オリオンビールの純利益の減少が止まらないが、これも過当競争の結果であろう。さらに、オリオンビールには特有のリスクがあるようだ。
72年の沖縄の本土復帰に際しての復帰特別措置法で酒税が20%軽減された。この特典は時限法のため、今まで何回か継続の措置がとられ現在に至っているが、22年5月で終了する可能性は高い。となると、オリオンビールの現在の利益は、消失する可能性も十分ありえる。
となれば、オリオンビールは、今や抜本的な経営建て直しが必要な状況にあるというべきである。そのためには、ビールに頼らなくてもよい、新たな収益源を見つけることが秘須であろう。

ビールに頼らない収入源としては、沖縄という地政学的な置からすれば、有力候補は旅行業であろう。沖縄は、既にアジアから多くの旅行者を迎え入れていることが示すとおり、観光資源は豊富だ。
オリエンタルビールは既に子会社でホテル業を行っている。これを核とすることは効果的だ。だが、NCAPとカーラルには、旅行業のノウハウは無い。となれば、M&Aで、旅行業関連企業を大胆に買収する必要があろう。
また、オリオンビールは、すでに台湾、米国、香港、中国、韓国、オーストラリア、シンガポールへと、ビール業の海外展開をしている。これと旅行業がシナジーを効かせば、成果は大きいであろう。
 とはいえ、野村には心配な過去がある。それは、ハウステンボス(長崎県佐世保市のテーマパーク)である。野村は、03年に会社更生法適用の申請をしたハウステンボスの再建スポンサーとなり、その後300億円を投じたが、結局再建に失敗した。ところがこれを、09年、旅行業のエイチ・アイ・エスが承継したところ、1年で黒字化に成功させてしまった。
この野村の失敗の原因は、専門外の事業を、自分だけで遂行しようとしたからである。NCAPとしては、このときの経験を生かし、効果的なM&Aにより専門家とノウハウを集中させ、旅行業とビール業を発展させ、沈滞気味な沖縄経済を救済してほしいものである。

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