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2019.5.9

学習塾業界のM&Aについて

2019.5.9

学習塾業界のM&A

小黒健三
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学習塾業界のM&A

学習塾のM&Aでは、どのぐらいのEBITDA乗数倍率が付くだろうか。
学習塾市場は、小学校高学年から高校3年迄の生徒数に大きく依存する。その点、少子化の日本にあって、学習塾が衰退産業の典型なのは間違いない。
中学受験を含め私立入試も一般化した。こうした学習塾にとっての新しいニーズも出てはいるが、都市部を除き影響は限定的であるといえる。大手予備校は別として、学習塾の存在意義は、義務教育で本来行うべきことを代替する、定期試験対策の場、ということにあった。ある意味、その意義は生きている。親が子供を想う気持ちは、世代間でさほど変わらないように、学習塾の本質もそれほど変わっていないのである。
現在は、中規模の町が減っている。中間が省かれ、ハブとなる場所に人が集中する傾向にある。通信を通じたライブ講義、先進的なeLeaningの講義が広まれば広まるほど、地域の学習塾は不要になっている。収益があまり落ちていない学習塾があると意外だ、とすら思える。安定していれば学習塾としては十分なほどの優秀な財務状態、ということにはなるのが今の状況である。
上記の状況を考えるにつけ、EBITDAの9倍~14倍というような数字はまず出てこない。従来から言われてきた、EBITDAの4~5倍の水準でも十分に通用するDeal Valueとなる。実際に、その水準で成立する案件が多い。多くの案件が、事業承継から生じる案件という背景もあるだろう。

デューデリジェンスとして学習塾を見るとき、どのようなポイントに気を付けることになるだろうか。
学習塾の財務分析を行う際の一つの視点は、教室別損益である。細分化して、個別カリキュラム毎の受講数、一人当たり単価という視点が加わる。一部の都市部はともかく、学習塾で1人あたり3万円を超えるような月謝を払える家庭は限られる。有名中学、高校、または大学への進学実績で知られる予備校的な学習塾は、単価がとりやすい。それも難しい課題で、それをクリアしている学習塾は価値がある。他方、学校の試験対策を中心にした学習塾も多く、そうした中で、受講者や単価を上げている学習塾はさらに驚くべきことである。定量化しにくいが、個々の地域性への対応は重要なファクターである。前述のとおり、生徒の母数が一定数はいないと学習塾ビジネスは成り立たない。急速に売上が落ちている学習塾も多いなかで、業績が安定している学習塾もある。
私の経験では、うまくいっている学習塾は、生徒の母親の口コミ文化のなかで評価を得ていたり、個別面談が丁寧だったりする。またはもっと単純に、駅や特定の学校に近い、または安全な場所にある、という聴取結果が得られる。地域性と、それに対する対応は、学習塾にとっては重要な要素であり、どういう生徒が周りにいて、生徒の母親の心をどう掴んでいるか、というのは調査の仮定で聞いておきたい項目になる。それをまとめたとき、「なんだ、当たり前のことでつまらない」というのはやさしい。しかし、そのような普通のことをやり切れているところが学習塾としてうまくいっているし、それは簡単なことではない。そうした面白くもない結果を、数値的に、論理的に、説明できるかが学習塾に限らず、財務デューデリジェンスの本質の一部なのである。
教室別損益をKPIとして調査を始めても、分析に足る教室別損益があるとは限らない。俯瞰した説明をするには、あまりに個別特性が強すぎる場面も多い。結果的には、教室別、学年別、月次別の状況を把握し、成功しているのか、あまりうまくいっていないのかを理解する。教室長やエリア長がどんな人物か、なぜ生徒が集まるのか、集まらないのを手掛かりにヒアリングし、分析をおこなっていく、という伝統的でベタな調査をなっていってしまうのも、学習塾の財務デューデリジェンスでの特徴でもある。
「先生」という勉強ができ、いかにも管理にも優れる、という印象のある人たちに囲まれていても、総務や経理の機能は概ね弱い。学習塾の多くは、ごく普通の、オーナー企業である。

まとめ

学習塾の案件に携わると、昔の光景と大して変わらない状況に驚くというか、予想通りで返ってホッとするというか、そうした複雑な気分にさせられる。

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