プロコメ

2019.5.29

ビール会社のM&Aについて

2019.5.29

アサヒビールの国際M&Aは成功しているか

川井隆史
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1.アサヒビールグループの2018年度の決算とここ数年の海外買収

アサヒビールグループ(「アサヒ」)の2018年度決算を見ると売上収益が2.1兆、営業利益が2117億と売上前期比1.7%増、営業利益15.6%増と増収増益でした。そしてその中身をセグメント別に見ていくと国内の酒類が売上収益、営業利益でそれぞれ4.1%、4.9%の減収減益であったのに対し、国際事業は売上収益で前年比12%、営業利益で114.8%と増収増益でした。国際事業で今回の買収の欧州事業は大部分を占めますので今回の増収増益はこの国際事業によってもたらされたと新聞などでは報じています。この国際業務におけるヨーロッパの事業はほとんど2016年において買収した事業がほとんどです。少し、ここ数年のアサヒの買収について復習してみましょう。
 そこにはアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)によるSABミラーの買収という欧米の巨大ビールメーカーの大きな動向があります。旧SABミラーは合併にあたり、英国事業と東欧事業を独占禁止法に抵触するのを避けるため事業売却に踏み切りました。アサヒは2016年10月に西欧事業(英国、イタリア、オランダ)を2045億円(25.5億ユーロ)12月には東欧事業(チェコ、スロバキア、ポーランドなど5か国)を約8883億円(73億ユーロ)で買収しました。
 一方中国事業についてアサヒは19.99%保有する青島ビールの株式を2018年3月に約1060億円で売却しました。あまり青島ビールとの相乗効果もなく国際業務については欧州に集中するという方針と思われます。一方、さほど大きくない買収ですが5月7日には英国の英国 Fuller, Smith & Turner P.L.C.社のビール・サイダー事業を250百万ポンド(約360億円)の買収手続きを完了したというリリースが出ていました。

2.アサヒビールの買収は成功か―2018年度決算より

 2019年2月に決算説明会をしておりその際の数字を見てみましょう。

国際事業の収益、利益

 欧州事業の収益、利益

(アサヒビール2019年2月発表の決算資料より)

国際事業は7133億円の売上収益で事業利益は996億円でした。そして欧州事業は売上収益4655億円、事業利益811億で国際事業の大部分をこの買収した事業が占めていることがわかります。

実は2016年10月11日からの2016年度の西欧事業売上収益は263億、2017年4月からの2017年度の中東欧事業の売上収益は2374億(非監査の数字)であったと有価証券報告書の「企業結合」注記で発表しています。単純に2016年を2.5か月分、2017年を9か月分の売上収益と仮定して1年分を計算すると売上収益は4428億円となります。季節変動等もありますから単純には判断できませんが特に今のところ2018年の売上4655億円は買収後、目覚ましい成長があったわけではないということがわかります。逆に買収後劣化するといった大きな失敗ではなさそうですが、シナジー効果が早期に出ているといった兆しはとりあえず見当たりません。短期的にみると失敗とは言えないが、大成功とまでは言えない状況でしょう。

3.アサヒビールの買収は成功か―中長期的展望より

 発表資料(2018年5月の欧州事業説明会)などを見る限り買収した欧州企業の経営陣には少なくともアサヒの日本のメンバーは入っていないようです。そして、特に目を引くようなプランもなく基本的には現状の延長線上でやっていくといった方針に見えます。特にアサヒ本体との営業戦略との統合は見えてきていません。

為替の影響もありますが欧州事業は売上収益でほぼ横ばい、利益ベースでも4.2%の伸びの2019年予測であり緩やかな成長といったところでしょう。

加えてのれんが西欧事業1230億と東欧・中欧事業4279億で合わせて5509億、ブランドなどの無形固定資産が1512億と4846億で合わせて6358億円です。無形固定資産もあわせた広義ののれんは約1.2兆円です。

総合すると失敗ではないですが、アサヒとの何らかの統合効果が見られない限りこの高い買い物は見合っていないといえます。高くハイリスクな買い物に見合うほどのリターンは得られていないハイリスクの投資、やや低めのリターンな結果というのが現状の見方です。

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