プロコメ

2019.7.3

ファンドによるM&Aについて

2019.7.3

ファンドによるM&Aについて

増谷 嘉晃
増谷 嘉晃 弁護士 プロフィールを見る

1.ファンドによるM&Aとは

M&Aとは、どのようなものなのかについて、法令上、特に具体的な定義があるわけではありませんので、様々な切り口でM&Aを語ることができます。たとえば、法形式に着目するとすれば、新株引受、株式譲渡、合併、事業譲渡、株式移転等によるM&Aと整理して議論することができます。
ここでのテーマは、ファンドによるM&Aですので、買主の属性に着目した切り口で解説することになります。ここでいう買主の属性とは、ファンド、すなわち、対象会社を買収し、企業価値を高めて最終的に第三者に売却する、あるいは、対象会社を上場させて株式を売却することによって利益をあげることを目的とした買主です。典型的な例としては、プライベートエクイティファンド(PEファンド)と呼ばれるファンドが挙げられます。なお、非公開会社に投資をして企業価値を高めて利益を得るという観点からするとベンチャーキャピタル(VC)も類似する側面もありますが、VCの場合は、通常は創業者が株式の大半を保有するので、M&Aとはいうテーマからは外れます。

2.SPCを用いたノンリコースローン

ファンドによるM&Aの特徴は何かと考えた場合、SPCを用いて資金調達をして、SPCに対象会社を買収させるというスキームを用いるということが挙げられます。
買収資金の調達のために金融機関からの借り入れを行う際に、ファンドがSPCに出資を行い、当該SPCに買収資金の借り入れをさせ買収資金を調達し、当該SPCが対象会社を買収するのです。
ファンドがSPCを用いるのはなぜかというと、当該SPCに買収資金の借り入れをさせることによって、ファンドは自らが借り入れ主体とならずに済むので、借り入れの債務を負わず、リスクを制限することができるという点にあります。
金融機関が、買主に遡及することができない(ノンリコース)ということで、ノンリコースローンなどと呼ばれます。
通常、ノンリコースローンでは、買収後に対象会社がSPCの借入債務について連帯保証し、対象会社の資産は担保に供されることになります。つまり、ノンリコースローンは、対象会社が将来生み出すキャッシュフローと資産に依存した資金調達スキームであると考えられます(そうであるから、買主にとってリスクを制限できる)。
なお、買主自らが金融機関から借り入れをして買収資金を調達するスキームは、リコースローンと呼ばれます。
ノンリコースローンにおいては、対象会社の事業活動を厳しく制約する条項が設定されたり、対象会社の主たる資産のすべてに担保を設定することを求められるなどといった制約を受けることになります。金融機関としては、対象会社のビジネスを審査した上で、融資の判断をしているのですから、対象会社のビジネスを大幅に変更されたりすると困るでしょうし、買主に対して遡及することができないというリスクを負うのですから、やむを得ないところであろうかと思います。
一方、リコースローンの場合は、買主の信用力が高い場合に用いられ、買主自体が借り入れ主体となるため、ノンリコースローンのような制約がないことが多いといえます。

3.LBOによる買収スキーム

このように金融機関等からの借入金を活用することで、大きなキャッシュフローを生み出す事業を少ない資金で買収することができます。借入金をてこ(lever)として、買主のリターンの最大化を図ることから、このような買収スキームは、Leveraged Buyout(LBO)と呼ばれます。
LBOによる買収スキームの流れを簡単に説明すると次のような流れとなります。

⑴ 買主が受け皿となるSPCを設立する
⑵ SPCが買収資金を金融機関等から調達する
⑶ SPCが既存株主から全株式を取得する
⑷ SPCと対象会社を合併する
⑸ 新対象会社が金融機関等へ借入を返済する

LBOによる買収スキームの例として、2006年のソフトバンクによる英ボーダフォン日本法人(現・ソフトバンクモバイル)の買収が成功例として挙げられます。この買収においては、買収総額1兆7500億円のうち、約1兆円がノンリコースローンで調達されました。当時のソフトバンクの売り上げが1兆円程度でしたから、借入金によるレバレッジによって、小が大を呑みこむことに成功したということができます。

4. 最後に

 日本では、ファンドというとあまりいいイメージをもたれていないかもしれません。しかし、たとえば、ファンドが後継者問題を抱えている事業会社のオーナーから株式を譲受け、会社の企業価値を最大化することに成功すれば、日本経済の活性化に資することになります。
事業の後継ぎがいないがために、やむなく廃業を選択せざるを得ない会社のオーナーは数多く存在します。そのような会社への資金供給の担い手となることができれば、ファンド、オーナー含めた会社関係者のみならず、日本国民全体の利益になるように思います。
ファンドによるM&Aが活性化し、日本経済もより活性化することを願ってやみません。

以上

最新のプロコメテーマ