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2019.7.10

ビルメンテナンスのM&Aについて

2019.7.10

生き残りをかけたビルメンテナンス業界のM&A戦略とは?

川井隆史
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最大手のイオンディライト㈱のM&A戦略

1.ビルメンテナンス業界の概要

 ビルメンテナンス業界のマーケット規模は約4兆円といわれています。しかし、国内の商業施設やオフィスビル等のストックに中長期的に大きな伸びはなく今後の成長機会は限定的といえましょう。加えて顧客からはコスト削減を強く求められる一方、かなり労働集約的事業(業界の人件費率約80% 公益社団法人ビルメンテナンス協会資料より)の中で人件費の上昇および人手不足が深刻で収益の確保は難しい状況になっています。さらに、顧客からは安心・安全・快適さといったファシリティの快適さを求められ、顧客ニーズの高度化という課題にも直面しています。
 その中でこの高度化した多面的サービスをリーズナブルな価格で提供する総合FMS(ファシリティマネージメントサービス)の展開をめざすイオンディライト㈱(以下イオンディライト社)を取り上げます。イオンディライト社はM&A戦略を巧みに用いてこの厳しい業界環境の中で生き残りをはかろうとしています。

2.イオンディライト社の概要

 イオンディライト社は総合小売業であるイオン㈱が約55%を保有数するイオングループの企業ではありますが、東証一部に上場しているある程度独立性のある企業です。2019年2月期の売上3029億、経常利益は133億、ビルメンテナンス業界1位で、ビル管理でもマンションなど住居向けではなく、商業施設を主流としています。
 ビルメンテナンス業の主力である設備管理、清掃、警備をすべてカバーしているだけでなく、ファシリティに関わるすべての業務と人的リソースを顧客に代わって統合的に管理運営し、ファシリティ全体のコスト効率を上げ、業務を合理化する「IFM(インテグレーテ
ッド・ファシリティマネジメント)事業」を提唱して付加価値の高いサービス提供を目指しているようです。
 2001年に経営破たんした㈱マイカル傘下の子会社㈱ジャパンメンテナンスがもともとの母体でマイカルの倒産でイオングループの傘下に入ったのち、M&Aや他社との合弁をもとに成長をしてきました。では主なM&Aや合弁の経緯を見ていきましょう。

3.今までのM&Aの経緯

 大きく分けるとM&Aや合弁による設立には2つのパターンがあります。いわゆる顧客層を取り込む規模や面の拡大を目指したいわゆる営業型と戦略的にノウハウを取り込む戦略型の2つをそれぞれ行っている印象が強いです。
 戦略型としては2011年のヴィンクス㈱との合弁で設立したFMSサービスと(イオンディライト社70%出資、2016年完全子会社化)と2012年の㈱ファミリーネットジャパンとの合弁のAライフサポート㈱(2016年吸収合併)と㈱ジェネラルサービシーズのM&Aでしょう。

ヴィンクスは流通企業向けのITソリューションに強い企業であり、ファミリーネットジャパンはマンション管理業務支援においてICTを使って効率化するサービスを提供しおり、ジェネラルサービシーズはおなじくITを用いた人材管理のコンサルティング会社です。イオンディライト社としてはこういったICTを使ったFMSのノウハウをこういった合弁事業で入手するといった戦略的意図があったのではないかと思われます。
 
もう一つは面の拡大といった営業型のM&Aや合弁です。当初、イオンディライト社は主として中国を中心とした海外展開を志向していた感は強いです。
 
永旺永楽物業服務有限公司の51%を2012年に取得(2018年完全子会社)、2013年には武漢小竹物業管理有限公司の51%を取得して(2018年完全子会社)本格的に中国に進出しました。ともに中国の主要都市においてFMS事業を展開しており、M&Aにより一気に顧客層とビジネスを取り込む営業型の面の拡大を行っています。さらに、2018年に入ってPT Sinar Jernih Sarana の発行済株式の90%を取得し、子会社化などその面の拡大を東南アジアにも広げました。
 
一方国内においても2015年㈱ジャスダック上場である白青舎をTOBにより買収しました。白青舎は関東、中部、関西に強い、もともとピーコックストア(2013年イオングループに買収)の警備・清掃を引き受けていた企業です。この買収は関東・関西・中部において管理物件を広げるといった営業的、面の拡大もありましたが、一方クリーンルームの清掃といった特殊な分野でも強みを持っておりそういった意味では営業型・戦略型ハイブリットなM&Aであったといえるでしょう。

まとめ

 イオンディライト社の場合、業界首位の企業ではありますが、そこに安住せず面の拡大としての営業型M&Aとしては最初に中国でじっくり基盤を固め、次は東南アジアに焦点を定め今後も中国と東南アジアを主として拡大を続けていきそうです。一方国内では面の拡大はじっくりと安値の売り物に絞り、どちらかというとICTを使った統合的管理ノウハウを強化する戦略的M&Aを用い、海外と国内で違う戦略のM&Aを駆使していく感が強いといえるでしょう。

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