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2019.10.30

資生堂によるドランクエレファントの買収について

2019.10.30

資生堂のドランクエレファントの買収 -ベアエッセンシャルの失敗から学んでいるか?

川井隆史
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1.資生堂のドランクエレファント買収の概要

2019年10月8日に資生堂は高価格帯スキンケアブランドを展開するドランクエレファント(2019年売上約135億円)を約845百万ドル(約900億円)で買収すると発表しました。

この企業は肌の健康に直接寄与する成分や効果をサポートする原料のみを使用し、不必要あるいは肌に悪影響をもたらす可能性がある原料を排除するなどして作るスキンケア化粧品の製造販売を行っています。

この買収の狙いとしては以下の4つを資生堂が挙げています。簡潔に要約すると北米事業の立て直しと米国クリーンビューティー市場への浸透(人体や環境にクリーンな製品を求める動き、)D2C事業ノウハウ(SNSを巧みに利用してECを通して販売)とアジア地域での展開です。

いろいろと述べられてはいますが、一番の目的は北米事業の立て直しではないかと思われますが、その裏には後述する過去のベアエッセンシャルの買収の痛い失敗があるかと思われます。

クリーンビューティーについては米国のミレニアル世代(1980~2000年や生まれ)ジェネレーションZ(2000年~2010年)などの高収入の比較的若めの世代に強く支持されており、そのマーケットを狙っているといえます。そして、ドランクエレファントはアジアについてはほぼ未開拓だったので、資生堂としてはクリーンビューティーを強く求めるアジアの消費者のあいだで大きく花ひらく可能性があるとみているのでしょう。

加えて、同社創業者マスターソン氏は製品開発とソーシャルメディアマーケティング、メッセージングについて非常に実践的であることで知られ、D2C(ダイレクトに消費者にリーチする手法)ノウハウの取得も一つの目的でしょう。そのため、同氏はドランクエレファントに最高クリエイティブ責任者として残り、プレジデントの役職につくと見られています。

さて、ここではこの買収の主たる目的であろうと推察される北米市場の立て直しについてもう少し掘り下げてみてきたいと思います。

2.好調な資生堂の業績と唯一足を引っ張る北米市場

資生堂の経営成績はここ数年非常に好調です。2017年12月期は売上1兆円を達成、2018年12月期 売上約1.1兆円 経常利益も1千億円超(1094億)となりました。しかし、セグメント上米国事業は営業利益147億円マイナス(2017年度は117億円のマイナス)で業績の足を引っ張る形になっています。

そして、この北米事業の不振の大きな原因の一つがベアエッセンシャルの失敗でしょう。
ベアエッセンシャルは 2010年1月15日に1800億(2008年12月期当時 連結営業利益約192億)で買収すると資生堂が発表しています。このときベアエッセンシャルの連結純資産はマイナスだったので買収額はほぼすべてのれんになったといってもよいでしょう。その後、業績不振で2013年3月期に286億円、2017年12月期に707億円の特別損失(のれん431億、商標権237億)をそれぞれ計上し、今も44億円(2017年)37億円(2018年)構造改革費用として店舗の閉鎖や人員削減をおこなっています。

ベアエッセンシャルは「自然派コスメ」が売りで買収時の売上高営業利益率は30%と高収益でしたが、競合激化で売上、利益ともに低迷しました。さらに、強みであったテレビショッピングの投資縮小も痛手となったといえます。百貨店や化粧品専門店での売り上げ拡大のため、得意としてきたテレビショッピングを縮小してテレビショッピング用の化粧品を、百貨店でも販売する化粧品に格上げすることを狙いましたが、これが大失敗となったようです。百貨店市場では世界の名だたる化粧品メーカーの高級ブランド品が競い合っており、食い込む余地はなかったからだといわれています。

現在はマーケティング改革に加え、直営店からテレビ通販まで幅広く展開する販路も、抜本的に見直し。間接部門統合としてカルフォルニアにあるオフィスも、資生堂の米国地域本社と統合させるようです。

 ただ、後から考えると競合が現れ苦しんだこと、また百貨店市場、テレビショッピングともに2010年にチャネルとしてはピークを過ぎており、実は単なる高値づかみということではないかと思われます。

3.ドランクエレファントは同じ轍を踏まないか?

 前回のベアエッセンシャルの買収の際のプレスリリースなどを読んでも要するに北米市場でのプレゼンスを高めること以外の目的がはっきりせず、北米事業の遅れや競合の仏ロレアルや米P&GのM&Aによるブランド買収攻勢に焦って高い買い物をしてしまった感が強いです。

 今回の買収においてはわりとブランド取得の意図や今後の戦略についてはベアエッセンシャルの買収の際と比べると明確であり、前回のような手ひどい失敗には終わらない気はします。実際にこのブランドの価値をどう生かしていくか、今後の巧みさにかかっているといえるでしょう。

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